お酒はほどほどに3
「あ、あのっ。お二人ともせっかくの新年会なんだし喧嘩は止めた方が……」
「ハハハッ、いいんじゃないかい? あの二人はいつもあんな感じだぞ」
オロオロしている私に、スッとサラダの載ったお皿が差し出される。
「アルフレッドさん。本当にいいんですか? せっかくのパーティなのに」
「構わないよ。二人が顔を合わせればいつもあんな感じだし。仲がいいって言うのはいいことじゃないか」
「……アレは仲がいいって言うんでしょうか?」
私の目には半分以上取っ組み合いの喧嘩が始まっているように見えるのですが。
「ノープロブレム。それより、こっちに行こう。折角来たんだから」
さり気なくアルフレッドさんに肩を抱かれ、戸惑いながらも会場の真ん中の方まで連れていかれる。
「取り敢えず、ビールでいいかい? それともカクテル?」
「私はそこまで強く無いのでオレンジジュースでお願いします」
「え〜、オレンジジュースかい? 今夜くらいハメを外したっていいじゃないか?」
「そうですが、帰れなくなってしまったら大変なので」
「そんな事気にする必要はないよ。ゲストルームは空けてあるから、今夜は泊って行けばいいし」
せっかく来てくれたんだから。と眉根を寄せて悲しそうな表情で訴え掛けられたら断るものも断りきれなくなってしまいます。
「じ、じゃぁカクテルで」
「OK、カクテルだな。君にぴったりなものを作って貰うよ」
「は、はぁ」
グッと親指を立てられて私は戸惑いながらも相槌を打った。
しばらくして、ウエイターが運んできたのは無色透明のグラスだった。
アルコールの度数はさほど無いのか、レモンの爽やかな香りがする。
「これは?」
「サムライと言うカクテルだよ。確か、日本酒をベースに作られているとか」
「日本酒、ですか」
これなら、飲みやすくて美味しくいただけそうです。
「口に合うかい?」
不安そうに尋ねてくるアルフレッドさんが、なんとなく子供っぽく思えて口元が緩んだ。
「はい。とても美味しいです。ありがとうございます」
「……っそうか。それは良かった」
「?」
口元に手を当てて、サッと視線を逸らす。心なしか頬が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。
「あの……」
「あーっ! アルてめっ! 勝手に菊を口説いてんじゃねぇっ!」
私が口を開きかけたその瞬間、突然大きな声が響いて物凄い勢いで肩を引き寄せられた。
「別に口説いていたわけじゃない。俺はただ、彼に飲み物を勧めていただけで……」
「いーや、口説いてた! たくっ、コイツ酔わせてあわよくばヤってしまおうって魂胆だろ」
「はぁ? 何を言ってるんだい全く……それは君の願望なんじゃないのか?」
呆れたようなアルフレッドさんの声に溜息が混じる。
「俺はいいんだよ。俺は! つーか、コイツヤっていいのは俺だけだかんな!」
「……ア、アーサーさんっ! なに言ってるんですかこんな公衆の面前で! あっ」
ポカンとしているアルフレッドさんの目の前で、グッと腰を抱かれ、アーサーさんの顔が近付いてくる。押し返そうとしても痛い位抱き締められていてびくともしない。
「ちょっ、酔ってるんですか?」
「俺は酔ってねぇ」
そう言うアーサーさんの目は既に据わっていて、そむけた顔を強引に振り向かせアルコールの匂いと共に唇を塞がれた。
周囲が水を打ったように静まり返り、息を呑む気配がする。
「――っ! ……っふ……ぅ」
息苦しくなってほんの少し開いた口の中に熱い舌を差し込まれ、私は完全に硬直してしまった。