お酒はほどほどに2
「えー、君も来たのかい?」
指定された時刻より少し遅く着いた私とアーサーさんを迎えてくれたアルフレッドさんの第一声がコレだった。
「なんだよ、来ちゃ悪いのか?」
「当然さ。君は酒癖が悪いから……。まぁ、来たものは仕方がないし、頼むから、裸で暴れたりしないでくれよ」
「暴れるかっての! たく、俺をなんだと思ってやがる」
プリプリと怒りながら会場に入って行くアーサーさん。私はその後ろ姿に一抹の不安を覚え、アルフレッドさんの袖を引いて尋ねた。
「あ、あのっ」
「なんだい、菊?」
「アーサーさんって、そんなに凄いんですか?」
「あぁ、凄いなんてもんじゃないよ。彼の酒癖が悪いのは有名な話だからね」
「……」
過去にあった彼の武勇伝(?)をツラツラと身振り手振りを付けて語ってくれるアルフレッドさん。
それを聞きながら、もしかしたら来なければ良かったかもしれない。と、後悔の念が押し寄せてくる。
「おーい、何やってんだよ菊! 早くこっち来いって」
「あ、はい。今行きます」
「ま、アイツの事は気にせずに君も楽しんでくれよ」
「そうですね、わかりました。ありがとうございます」
アルフレッドさんに軽く会釈をして、私はアーサーさんの元へ。
「結構広い会場取ってあるんですね……」
「そうだな。行き当たりばったりにしちゃよく集まった方じゃねぇか?」
「見知った顔が結構いらっしゃるみたいだから、後で挨拶に伺わなくては」
会場は立食式のパーティーのようで、既に集まっている何名かの人々にウエイターが飲み物を配って回っている。
「挨拶、ねぇ……菊の事だから殆どの国に顔見せてまわりそうだな」
目に浮かぶようだと、アーサーさんが喉の奥で笑い、ウエイターから受け取ったグラスを私に差し出して来る。
「挨拶は相手との交流を深める基本ですからね」
「それもそうだな」
互いに微笑してグラスを合わせ、ささやかな乾杯をする。赤ワインなのに口当たりがまろやかでとても飲みやすい。
「あぁ。結構イケるな。これなら酒が弱い菊でも飲めそうだろ?」
「はい。もっと苦い味を想像していたんですが、これなら美味しく飲めそうです」
「そうか、それは良かった。ビールが良かったらそっちを持って来てやるけど?」
一緒にテーブルに並べられている料理を取り分けながらそんな会話をしていると、そこに優雅にグラスを持ったフランシスさんがやって来た。
「なんだよアーサー〜、やっぱお前も来たのか」
「なんだとはなんだ! たく、どいつもこいつも……俺が居ちゃ悪いのかよ」
「いや。悪くはないけど……お兄さん今夜は用事あるから、酔い潰れても送って行かないからな」
器用にアーサーさんの肩を抱き、いつもの調子で話しかけてくる。
「別にてめぇの手を煩わせるつもりなんて、これっぽっちもないからな! つか、酔い潰れるまで飲まねぇし」
「ふふ、どうだか」
意味ありげな含み笑いをして、腕の中で暴れるアーサーさんにちょっかいを出しているフランシスさんと目が合ってウインクされ、私は思わず固まってしまった。
「珍しいな菊ちゃん。こう言う場所には来ないと思っていたよ」
「えぇ、あまり得意ではないのですが……たまにはいいかと思いまして」
「たまには……ね。そうだ、菊ちゃん。今度、うちにも遊びに来て欲しいんだけど駄目かな? 君が来てくれたらお兄さんすっごく嬉しいんだけど」
フランシスさんはアーサーさんを抱えたまま、私の耳元に顔を寄せそっと囁いて来る。
「あ、あの……」
「あっ! オイこらっ! そいつに近付くな!」
アーサーさんはフランシスさんの腕から抜け出すとムキになって、私の身体をフランシスさんから引き離した。
「おいおい、邪魔するなよ。ちょっと話すくらいいいじゃないか」
「いいや。駄目だ! お前と話すと菊が汚れる」
「酷い言い草だな、この眉毛! お前最近菊ちゃんにべったりし過ぎなんじゃないのか?」
「いいんだよ俺はっ!」