露日3

いつもニコニコしているけれど本心では何を考えているのか全くわからない所が恐ろしい。

「やだなぁ。そんなに警戒しないでよ」

ドンと部屋の端まで追い詰められ、逃げ場を失った私の背中に冷たい汗が流れてゆく。警戒するなと言われても、あんな手紙を送りつけてくるような相手を警戒するなと言うのが無理な話。

「答えて下さい。私に用があって、あんな手紙を寄越したのでしょう?」

どうせ、あの写真をネタに北方領土問題の事とかその他のあれやこれやを自分に有利な方向に持っていきたいのでしょうが、そう簡単にはいかせません。

まともな話し合いになるとは最初から思っていないし、どんな卑怯な手を使って来ても絶対屈しない覚悟で来ましたから。

でも、彼の口から出たのは、私が想像していたものとは全く違う言葉。

「用……と、いうか、君と友達になりたいと思って」

「は?」

ニコニコしながらさらりと言われ、思わず間抜けな声が洩れた。

「友達、ですか?」

もしかしたら、同盟でも組んで不平等な条約とか押し付けてくるつもりなんでしょうか?

「そう。友達……。君がアーサー君と同盟を組んだ時、本当なら君は僕と手を組む筈だったんだよね。それなのに、君は彼を選んだ……」

イヴァンさんの黒いグローブが私の頬を撫で仰向かされる。同性の「友達」に対して普通こう言う事はしないはずだ。

なんだか、嫌な予感がします。

「本当なら君の隣にはアーサー君じゃなくて僕がいる筈だったんだ」

「……何が言いたいのかさっぱりわかりません」

「わからない? じゃぁ、わかりやすく言ってあげる。僕と、セックスしよ」

「――はい???」

あまりにも唐突過ぎる言葉に、顔が引き攣ってしまった。今の会話でどうしてそんな言葉が出てくるのか、理解に苦しみます。

「アーサー君とはしているんでしょう? だったら、僕とも友達になってよ」

「ちょっ、ちょっと待って下さい! 何か大きな誤解が生じているようですが、私はアーサーさんと同盟を組んだからああいった関係になったわけではないです。その、同盟を組んだ時には純粋にお友達としてしか見ていなかったし……」

「へぇ、そうなんだ」

そう言いながら、イヴァンさんは私のネクタイを緩めスーツを脱がしにかかる。

「って、人の話全然聞いてませんね」

「聞いてるよ、ちゃんと。別に恋人になって欲しいなんて言って無いし。僕はただ、君と寝れたらそれでいいんだ」

「……っ」

それってつまり、身体だけの関係って事ですよね。イヴァンさんの言う「お友達」ってそう言う意味……。

「申し訳ありませんが、イヴァンさん。そう言う話でしたらお断りします」

「どうして?」

「どうしてって! 私は、アーサーさんを裏切るような事はしたくありませんし、他の誰かと、なんて絶対に嫌です」

「へぇ〜、本田君は好きになった子としか出来ないタイプなんだ」

「そんなの当たり前じゃないですか!」

「じゃぁ、僕がセックスで君を虜にしてあげる」

君に拒否権は無いよ。と、目の前に手紙に同封してあった写真をちらつかせながら笑顔で恐ろしい事を口にする。

「明日の会議で、このモニターにこの動画が流出したらどうなると思う?」

「――なっ」

写真だけじゃなくて動画まで!? この人、一体何処でそんなモノを撮影していたのでしょう。いや、そんな事よりソレが現実になったら世界中の人たちに私たちの関係が知れ渡ってしまいます。

今まで培ってきた信頼とか、一生懸命進めて来た外交とかが全て水の泡。

私は軽い目眩を覚え、壁にゴチッと後頭部をぶつけた。


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