露日2
部屋に戻り、入浴を済ませた私は入口付近に一枚の茶封筒が落ちている事に気がついた。
一体なんでしょう? 不思議に思いながらそれを拾い上げ、中を確認するとそこには私とアーサーさんの秘め事を映した数枚の写真と一枚の手紙。
――本日、〇時。会議室にて待つ。この事は誰にも他言しないように――。
プリントアウトされたその手紙を読んで、私は背筋が凍る思いがした。
一体誰が、何のためにこんなものを用意したのか。
少なくとも、コレが善意の手紙では無い事くらい私にだってわかります。
アーサーさんに相談してみようか? ふと、そんな考えも頭を過りましたが、相手は私達の秘密を知っているのだから、そんなことしたらどうなるかわかったもんじゃない。
彼に話すのは得策ではないと判断し手紙と写真をテーブルの上に置いた。
時計の時刻は午後一一時。あと一時間は考える時間を与えてやると言う、相手のメッセージでしょうか。
こんな写真を相手が握っている以上、私に拒否権などある筈もないのに。
一寸先が闇に覆われて行くような、言いようのない恐怖を感じ思わず身震いをした。そして……。
約一時間後。うっすらと明りの洩れる会議室の前で、私は盛大な溜息を一つ。
この扉の向こうに手紙の主がいる。そう思うとノブを回す手がどうしても止まってしまいます。
「あれ? 本田君じゃない。そんな所で何をしているの?」
「!?」
いきなり、背後から声を掛けられ私は飛び上がらんばかりに驚いてしまった。
「イ、イヴァンさんですか……脅かさないで下さいよ」
「だって、君がそんな所で不審者みたいにうろついてたから」
入らないの? と、私の手にイヴァンさんの黒い革の手袋が重なりノブが回る。
「あ、あの……っ」
ギィィッと言う音と共に部屋の明かりが薄暗かった廊下に洩れ、中から暖かい空気が頬を撫でた。
「時間、ぴったりだね☆」
うふ☆と、不気味な笑みと共に、イヴァンさんが私ごと部屋の中に押し入って来る。後ろ手にカチャリと鍵の閉まる音がして、ハッとイヴァンさんの方を仰ぎ見た。
「まさか、あの手紙……貴方が?」
「もちろん。来てくれて嬉しいよ」
にっこりと含みのある笑い方をされて、言いようのない不安に背筋がゾッとした。
「ここに来る事、誰かに話したりしてないよね?」
「するわけないじゃないですか。一体、どういうつもりなんです?」
ジリッと一歩距離が近づくにつれ、私も一歩下がってゆく。
私は、この人苦手なんです。いえ、はっきり言うと嫌い。