正月4

(菊side)
――はぁ。また、流されそうになってしまいました。

アーサーさんとは会うたびにああ言う事になってしまうので、今日こそ新年まで我慢しようと思っていたのに。

元々性には疎い人種の筈なんですが、彼といるとどうしても調子が狂ってしまいます。

まぁ、嫌い。では無いのですが……。

もう一度大きな溜息を吐くと、お湯がちゃぷんと小さな水音を立てた。

空にはいつの間にか満天の星。お湯に照らし出された三日月の柔らかな光と立ち上る湯気が幻想的な景色を作りだしている。

私はもっとアーサーさんとは、二人でこう言う雰囲気を楽しんだり、のんびりお茶を飲んだりしてゆったりと過ごしたい。

それは無理な願いなんでしょうかねぇ。

あの人もそんなに若くない筈なのに、なんであんなに元気なんでしょう? 

とても不思議です。

そんな事を考えていると、不意に浴室のドアがガラリと開いた。

「なぁ、俺も一緒に入っていいよな?」

「あ、アーサーさんっ」

うー、寒い。と身震いしながら、アーサーさんがひょっこりと顔を出した。

「……いいですけど、一つ約束してください」

「約束?」

「はい。今日はせっかくの大みそかなんですから、年が明けるまでさっきみたいな事するのは禁止です」

そう言うと、アーサーさんは明らかに不満そうな表情をする。

「なんでだよ。好きな奴と二人っきりになればヤりたいと思うのが普通だろ?」

「……っ。でも、駄目です。我慢してください。大体、アーサーさんはサカり過ぎなんですよ。いつでも何処でもシようとして。このままじゃ、私の身が持たないですから」

「そうか? 俺は普通だと思うけど」

不思議そうな顔をするアーサーさん。あれが普通だなんて、一体どんな性教育をしているのでしょう。

ホテルでするならともかく、会議室とか、移動中の車の中とか、あまつさえ廊下で、とか。いつ、誰が来るかもわからない場所でも出来ちゃう彼は本当に凄い。

そりゃ、好きな人と一緒に居てもっと触れ合いたいと思うのはわかります。でも、ああいった事は十回会って一回くらいの割合でもいいと思う。

私的にはそれでも多い方なんですが。

「……なーに難しい顔してるんだよ。OK、わかった。年明けまで待てばいいんだろ?」

肩までお湯に浸かりながら、アーサーさんが私の隣へやってくる。

良かった。わかってくれた。ホッとした次の瞬間、腕をがっしりと掴まれてアーサーさんの股の間に座らされた。

「あ、あのっ」

「わかってるって。何もしない。こうやって一緒に居るくらいならいいだろ?」

全く悪びれた様子もなく、私の身体を覆うようにアーサーさんの腕が絡みついて来る。

アーサーさんに凭れるような格好になって、私の肩に彼の顎が乗る。

こんなに直ぐ近くで彼の存在を感じるとドキドキして、胸が苦しくなってしまいます。

「そんなに緊張すんなって。二人で風呂に入るの初めてじゃないのに」

耳元でアーサーさんがククッと笑った。


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