正月1
一二月三一日。急に思い立って、俺は夕方から菊の家に泊りに行く事にした。
「悪いな急に」
「いえ、私もアーサーさんと一緒に新年を祝いたいと思っていたので嬉しいです」
にっこりと天使のような笑顔で微笑まれ抱きしめてやりたい衝動に駆られた。
だが、手を伸ばしかけたその瞬間。菊は厨房にいる奴らに呼ばれ踵を返して行ってしまう。
どうやら菊は今、忙しいらしい。
「俺、迷惑だったかな」
案内された客室でポツンと炬燵に入る。バタバタ、ドタドタと普段は音のしない菊の家が珍しく騒々しい。
しばらく一人でテレビを見ながらうつらうつらしていると、スーッと障子の開く音がした。
「すみません、なんのお構いもしなくて」
「気にするなって。急に来た俺が悪かったんだし。つーか、もういいのか?」
「はい、お節の準備はもう終わりましたから」
「お節?」
聞きなれない言葉に首を傾げると、正月に食う祝いの料理だと教えてくれた。
「毎年私一人では食べきれないので、アーサーさんが来て下さって助かります」
お口に合うかわかりませんが、と呟き菊も炬燵の中に足を入れて来た。
ひやりとした足先が俺の脛に当たる。
こんなに冷たくなるまで頑張ったんだな。
何気なく菊の足に手が触れると、ヤツの身体がピクッと僅かに震えた。
着物の下は生足、か。
ちらり、と邪な妄想が頭を過りスーッと太腿の方へと手を伸ばす。
「あっ、あの……」
菊は明らかにうろたえて顔を真っ赤にして俯いてしまった。そんな仕草をされたら悪戯だけじゃ済まなくなっちまう。
「どうしたんだよ?」
「いえ、あのっ手が……」
「あぁ、お前の足が冷たいから温めてやろうと思ってさ」
しらじらしい言い訳をして付け根に触れると、菊が小さく「ぁっ」と声を上げた。