我慢比べ5
ドスドスと物凄い勢いでアーサーが廊下を歩いている。その剣幕に誰もがサッと道を開け、彼の様子を伺っていた。
何もかもが気に入らない。さっきの本田の態度を思い出すとむしゃくしゃして髪を掻きむしりたい衝動に駆られる。
(全く、なんなんだよあの態度は! 俺がせっかく誘ってやったのに)
「おーおー、荒れてるねぇ」
「ああン!?」
ピリッとした空気を遮るように爽やかな声が響き、アーサーは思わずそちらを睨み付けていた。
「おいおい、紳士が道端でガン飛ばしていいのか?」
お〜怖い怖い。と肩を竦めて見せるのは、私服姿のフランシスだった。
会えば何かと口論になるので、出来れば今は鉢合わせたくなかった男の登場に、思わず小さく舌打ちをする。
「なんだお前かよ。何か俺に用か?」
「別に用って程じゃないけど、なんかすげぇ形相で歩いてるからからかってやろうかと思ってさ」
悪びれた様子も無く言い放った彼は相変わらずのノリでアーサーの肩を抱いた。
「その様子だと、お前菊ちゃんにふられたんだろ」
「っ! っせーな! ちげーよバーカっ!!」
痛い所を突かれ、悪態をつく。だが、そんな彼の行動は全てフランシスにはお見通しだったようで、がっちりとホールドしたままクスッと笑った。
「ふぅん……。せっかくお兄さんが相談に乗ってやろうと思ったのに」
「ハッ! てめぇに相談するような話なんてないっ! とにかく、離せっ! 離せって!」
出来ればそっとしておいて欲しいのに、もがけばもがくほどフランスは面白がって纏わりついて来る。
「おいアーサー。お前が菊ちゃんと付き合えるように手引きしてやったのは誰だか忘れたのか?」
「……っ!」
それを言われてしまえばぐぅの音も出ない。確かに、本田との関係に悩んだ時、フランシスに相談した経緯がある。
今、本田と一緒に居られるのは彼のおかげだと言うのはあながち間違いではないのだ。
だが、面白半分に首を突っ込まれるのは本意ではない。
だがしかし、恋愛経験が豊富そうなこの男なら今のこの状況を何とかするいいアイディアを持っているかもしれない。
「別に悩んじゃいねぇし、お前の世話になるつもりはこれっぽっちも無ぇけど、どうしても聞きたいって言うんなら話してやってもいいぜ」
「はいはい。じゃぁ、聞かせて貰おうか」
フンッとそっぽを向きつつ、ようやく大人しくなったアーサーから身体を離し、小さく苦笑するとフランシスは爽やかに微笑んだ。