No title
「……アーサー、本当に夕べの事覚えて無いのかい」
「ゆうべ……?」
ゆうべは確か、アルの誕生日がもう直ぐだから嗜好調査も兼ねて久しぶりに飲みに誘ったんだ。
腹も減ってたし、飯食いながら酒を飲んで少し話をして、それから……。
それからどうしたっけ?
飲んでからの記憶がすっぽりと抜け落ちてる。
「全く、キミはそろそろ自分の限界を知った方がいいんじゃないのかい? 飲むなとは言わないけど、グダグダに酔ったキミを連れて帰るの大変だったんだぞ」
「ははっ」
「いつもの事だけどさ、迷惑なんだよ。他の客が居るのに服は脱ぎだすし、泣きだすしで本当に大変で……まぁ、大方予想はしてたけどさ」
いかにも迷惑そうな顔をして、小さく息を吐くとベッドサイドにアルが腰を降ろした。ギシリと軋む音がしてゆっくりとベッドが沈む。
あぁ、最悪だ。死んでしまいたい。コイツと飲むといつも歯止めが利かなくなる。
「……アーサー、キミってさぁ……」
自己嫌悪に陥って俯いた俺の顎にアルフレッドの指が絡み、強制的に仰向かされた。眼鏡のレンズ越し、スカイブルーの瞳に見つめられてその真剣な表情に不覚にもドキリとしてしまう。
「な、なんだ」
「キミ、欲求不満だろ」
「――は?」
突然、真顔でそう言われて思わず間の抜けた声が洩れた。
「いや、意味わかんねぇし。なんで俺が欲求不満に見えるんだよ」
「だって、菊はこう言う事に疎そうだし。オレと寝たいから飲みに誘ったんだろう?」
ふぅっと耳に生温かい息を吹きかけられて、ぞわぞわっと背筋が粟立った。
菊が性的な事に疎くて若干物足りない事は否定しない。だが、
「ち、ちがっ! 俺はそんなつもりでお前を誘ったんじゃねぇっ!」
「じゃぁ、なんでオレを誘ったんだい?」
「そ、それはっ」
酒を飲んだついでに、さり気なく今欲しいもんとかないか聞きたかったから。なんて、死んでも言えるわけがない。