No title
「ヴぇ……なんか、凄いね……」
二人の行為をほぼ放心状態で見ていたルードヴィッヒは、フェリシアーノの呟きで我に返った。
色々とアーサーにいいたい事は多々あったのだが、あまりにも衝撃的過ぎて言葉にする事が出来ない。
「――っ、帰るぞ」
「えっ? もう帰るの?」
「ココに居たって仕方がないだろう」
と、言うよりこの空間に居たくないと言った方が正しいか。とても遊ぶ気になんてなれる筈も無い。
ルードヴィッヒは、ささっとメモを残すと脇に備え付けの下駄箱の上に置き、フェリシアーノの背を押してそっとその場を後にした。
「もう、なんて事するんですか!」
行為後の脱力感に包まれながら、菊は怒っていた。
「別にいいじゃねぇか。家ん中なんだし」
しれっと言い放つアーサーの態度に空いた口がふさがらない。
「本当は外でも俺は良かったんだが、それだと菊が嫌がるだろ?」
「そんなの、当たり前ですっ!」
外なんてとんでもない。衛生上良くないし、知り合いに見られたりしたら恥ずかしすぎて生きていけなく――。
「……そう言えば、ルードさん達が居たような……」
「あ? さぁ、気を利かせてくれたんじゃねぇ」
ルードビッヒの名を呟いた途端、アーサーの眉間にグッと深い皺が寄った。
「あいつ等の事なんて気にするな。菊は俺の事だけ考えて、俺の事だけ見てればいいんだ」
ギュッと抱きしめられたけれど、見られてしまったからにはそう言うわけにもいかない。
明日から彼らにどんな顔で会えばいいのかと、目の前が暗くなっていく。
「そんな落ち込むなよ。いざとなったら俺の黒魔術であいつ等の記憶を操作して……」
「妖しい魔法使うのは止めて下さい。きっと話がややこしくなっちゃいますから」
キリキリと痛む胃を押さえながら、下駄箱の上に何か紙切れが置いてある事に気が付く。
恐る恐る手に取ってみるとそこには直筆のメモが残されていた。
(あ〜、そういう事は部屋でするか、せめて玄関のカギくらい閉めておいた方がいいと思うぞ――)
最初の一行目を読んだ時点で、菊は激しい目眩を覚えた。
居たたまれなさ過ぎて吐き気すら込み上げてくる。
「アーサーさん、すみませんが私、私……暫く鎖国します!!」
「はぁっ!? おいっ、ちょっ! おまっ、何言って……」
突然の宣言に驚いてあたふたするアーサーの腕から抜け出すと、菊は自室に引きこもりぴしゃりと襖を閉じてしまった。
「菊! そんな引きこもる事のもんでもないだろ」
「アーサーさんにとってはたいしたことなくても、私からしたら死活問題ですよ。本来なら切腹レベルです。ルードさん達に顔見せ出来ないので、後は適当に帰って下さい」
「切腹って、大袈裟な……」
何とか襖をこじ開けようとしたが、全くびくともしない。
こうなった時の菊の頑固さは恐らく学園一では無いだろうか。
天の岩戸と化した襖を見つめ、少々調子に乗り過ぎたかと、アーサーは盛大な溜息を吐いた。