No title
「あのっ、実は今日うちの両親旅行に行っていていないんです。だから、よろしければ家に遊びに来ませんか?」
「!」
思い切って言ってみたら、アーサーは一瞬目を丸くして驚いたような表情を浮かべた。
「なんだよそれ、誘ってんのか? こんな明るいうちから、菊も随分大胆になったもんだな」
「なっ!? ち、ちがっ! 私は別にそう言う意味で言ったわけじゃないです」
「じゃぁどういう意味なんだ?」
ニヤリと笑われ、慌てふためく菊。
その反応が可笑しくて、アーサーは小さくクッと喉で笑った。
「クク、冗談だって。OKいいぜ。どうせ俺もこのまま帰るのは忍びないと思っていた所だったからな」
ほら行こうぜ。と、手を差しのべられて菊は一瞬戸惑ってしまった。
手を繋ぐのか? 今、この場で?
思わず周囲が気になって躊躇してしまった菊を見て、アーサーは小さく息を吐くとそのまま手をポケットに突っ込み歩き出した。
「あ……」
「何やってんだよ。行くぞ」
慌てて後を追いかけ横に並ぶ。手を繋ぐ事を拒んでしまい怒っているだろうか? 不安に思って顔を上げると、深いグリーンの瞳とぶつかった。
「あの……すみませんでした。手……」
「別に。嫌だっつーもんを無理やり繋いだって楽しくねぇだろ。気にすんなよ」
頭をくしゃくしゃっと撫でられ、笑いかけられて胸がドクンと大きく高鳴る。
「アーサーさんって、優しいですよね。そう言う所が、私は好きですよ」
「なっ、なっ! いきなり何を言い出すんだっ、馬鹿っ」
素直な気持ちを口にしたら、アーサーはずざざざっと音がしそうな程飛び退り、頬を染めてふんとそっぽを向いてしまう。
(照れなくてもいいのに。本当に面白い人)
周囲にはあまりいい評判が無いようだが、そんな事は無いと思う。
性欲が旺盛な事は少し問題だとは思うけれど、それ以外については概ね満足している。
ガラも口も悪いけれど紳士的だし、基本的に優しい。菊が本気で嫌だと言う事は絶対にしないし、意外に周囲に気を遣っていたりもする。
そっと、彼のブレザーの裾を引き歩幅を合わせると、アーサーはハッとしたように息を呑み周囲を見回すとさり気なく肩を抱いた。