No title
(……はぁ、何をやっているんでしょう、私……)
学校を出た菊は家まで続く道を一人寂しくとぼとぼと歩いて帰っていた。
アーサーと付き合うようになってからと言うもの、頻繁に求められるようになった。
彼の事は前から好きだったので、行為自体に不満はないのだが(もう少し控えて欲しいと言う気持ちが無いわけではないけれど)
いい雰囲気になると必ずと言っていいほど何かしらの邪魔が入ってしまうのだ。
唯一誰にも邪魔をされない秘密の場所は現在工事中だし、このままでは本当に
(欲求不満になってしまいそうです……)
「おいおい、すげー猫背だな。まるで年寄りみたいだぜ」
「!」
ボンッと背中を押され、驚いて振り向くと、アーサーが息を切らして立っていた。
恐らくあとを追いかけて来たのだろう。
「フランシスさんとの喧嘩、終わったんですか?」
「あぁ、瞬殺で沈めてやったぜ!」
得意げにそう言う彼。
「あまり校内で問題起こすと停学になっちゃいますよ」
「大丈夫! フランシスはアレで結構頑丈なんだ。その心配は一切してねぇ」
自信満々に言うところが凄いと思う。その自信は一体何処からやってくるのだろうか?
「さっきは、悪かったな」
突然の謝罪に驚いて顔を上げると、アーサーは明後日の方を向いたまま申し訳なさそうに自慢の眉毛をハの字に曲げて頬を掻いている。
「学校じゃ中々二人になれねぇからついがっついちまった。俺はともかく菊はやっぱ嫌だよな」
「……いえ。同意したのは私ですし。それに……キスくらいなら、スリルがあっていいと思いますよ」
流石にあんな場所で本番行為をされてはたまったもんじゃないが、ほんの少しの触れ合いなら悪くない。
「本当か!?」
「あ! でも、だからと言って見境なくキスしようとするのは止めて下さいね」
「うっ、見境なくするわけないだろ、馬鹿! 俺は紳士だからな。一応場所はちゃんと選ぶ!」
フンッと鼻息を荒くして紳士を主張する彼を見て思わず失笑が洩れそうになり慌てて口元を押さえた。
紳士が廊下でキスしようとするのか? と、ツッコミを入れてやりたくなったが、それは敢えて言わないでおく。
「しかしなぁ……今更なんで屋上の工事なんか……。あそこは秘密の隠れ場だったのに」
「なんでも、最近ソコにたむろしてる生徒が居るとかでサボり防止の為だってルードさんが言ってましたよ」
「サボり防止……ねぇ。ピッキング出来ないような鍵をつけられないように祈るしかねぇな」
「ははっ、ピッキングは犯罪なんじゃないですか?」
「大丈夫、大丈夫♪ 別に人の家に押し入ろうってわけじゃねぇし」
そう言う問題じゃないと思う。
夕暮れの公園に差しかかり二人は自然と足を止める。オレンジ色に染まったブランコや滑り台には小学生達の元気な声が響いている。
此処を過ぎれば二人は離れなくてはいけない。家の方向がお互い逆なのでどちらかともなく口を噤んだ。