No title
「あれ、アーサーじゃないか」
「!!」
「おぶっ!?」
突然、背後から声を掛けられ、アーサーは思いっきり壁に頭を押し付けられ、鼻の頭を殴打してしまった。
「って〜……っ。何すんだ! 菊っ」
「す、すみません。勢いが余ってつい……」
赤くなった鼻の頭を押さえながら睨みつけると、菊は申し訳なさそうに肩を竦める。
「勢いって、お前……。つか、フランシスがいきなり声かけてくるのが悪い!」
「オレぇ?」
いきなり話題を振られ、びしっと指をさされてフランシスはなんで俺なんだよと不満げに眉を寄せた。
まさかアーサーの陰に菊が隠れていたなんて微塵も思って居なかったのだ。
「折角キス出来るチャンスだったのに……」
ガルルルと今にも噛みつきそうな勢いで睨みつけられフランシスは肩を竦める。
「ごめんごめん。まさか、こんなとこでイチャイオチャしてるとは思わなかったからさ。でもなー、ちょっとガッツキすぎじゃね? こう言う事は家でやれよな」
「うるせーっ! 俺達が何処でイチャつこうがてめぇには関係ねぇだろうがっ!」
家で出来るのなら初めから学校なんかでキスしようとしていない。
「大体、学園で一番スケベなアーサーがキスだけで満足出来るわけないだろ」
ねぇ、菊ちゃん。と、突然同意を求められ、真っ赤になって俯いていた菊は大きく肩を震わせた。
「誰がスケベだ、誰がっ! エロ変態なてめぇに言われたかねぇな!」
「見たまんまだろ? 自分では紳士だって勘違いしてるみたいだけど、俺見たんだぜ? この間授業中にエロ本読んでたの」
「なっ!? なんでそれ……」
「アーサーが珍しく真剣な顔して授業受けてるから、どうしたんだろうって見たらエロ本だろ? いくらエロが好きでも俺は授業中には読ないしなぁ」
ニヨニヨと笑いながらアーサーを牽制するフランシス。今にも大きな喧嘩に発展しそうな勢いの二人に菊は胃がキリキリと痛むのを感じた。
このままでは、まだ残っている生徒達の注目の的になってしまう。それどころか、自分もこんな低俗なネタの一員とみなされてしまうかもしれない。
「あ、あのっ! 私用事を思い出したので先に帰りますね!」
「えっ!? あっ、おい菊っ!」
二人の喧嘩に巻き込まれては堪らないとばかりに、菊は脱兎のごとく勢いでその場を後にした。