No title
「勉強は後でちゃんとやるから……せっかくやっと二人きりになれたんだし、楽しもうぜ」
「で、でも……」
「約束は守るよ。菊は……? 俺と何もシたくねぇの?」
耳元にわざと色っぽい声で囁いてやると、菊の身体が大袈裟なほど震える。明らかに狼狽して目を泳がせる姿が可笑しくて、喉で笑ってしまいそうになる。
「俺は紳士だからな。菊が嫌がる事はしねぇよ」
「嘘ばっかり――アーサーさん、私が嫌だって言ってもいつも止めてくれないじゃないですか」
「菊が本当に嫌がる事はしてない筈だぜ?」
本気で嫌がらせてまで無理やりやる趣味は無い。菊が本当に嫌だと言うのなら我慢するくらいの理性は常に持ち合わせているつもりだ。
「菊がシたくねぇって言うなら、止める」
頬を撫で、顎を持ち上げ茶色がかった瞳を覗き込む。息がかかりそうな程近くで見つめると、菊の喉がごくりと鳴った。
どうする? と訊ねたら、しばらく逡巡したのち菊がはぁと盛大な息を吐いた。
「アーサーさんは意地悪です。私が断れない事知ってるくせに……」
「そこまで自惚れてないぜ。菊が好きだから、無理やりな関係が嫌なだけだ」
「――もう、いいです……」
するりと腕が首に回り、菊の瞳がゆっくりと閉じられてゆく。ベッドに凭れる菊の身体を抱き締めゆっくりと唇を触れ合わせ――。
「たっだいまー! ピー君今帰ったですよ! 早くオヤツ寄越すです、眉毛野郎――って、何してるんですか?」
突然バーンと勢いよく扉が開き、弟のピーターが飛び込んで来て二人は一瞬固まってしまった。
「なっ、なっ! てめっ! 部屋に入る時はノックくらいしろっていつも言ってんだろうが!!!」
睨みつけても全く効果は無く、チラリと背後に目をやれば菊が慌てふためき、顔をベッドに伏せて顔を隠してしまっていて瞬時にふり払われた甘い雰囲気にアーサーはがっくりと肩を落とす。
「くそー、いい所だったのに……」
「いい所ってなんですか?」
「お子ちゃまには関係ねぇの。つか、オヤツならいつもの所にあるから勝手に食ってろよ」
邪魔するんじゃねぇぞ。と、念を押してドアに鍵を掛けた。