No title
不安に思っていると、背後でアーサーさんが動く気配がした。ゴソゴソと衣擦れの音が響き私の布団にアーサーさんが滑り込んでくる。
「こっち、向けよ」
そっと抱きしめながら言われ一際大きく心臓が跳ねた。
恐る恐る振り向けば、深いグリーン色した双眸が真っ直ぐに私を見つめていて息が詰まる。
何度か抱き締められた事はあるけれど、こんなに近くでアーサーさんの顔を見るのはあのキス以来二度目。心臓が物凄い速さで脈打っているのがわかります。耳のすぐ側でドックドックとなっているような気すらするほど。
「俺……お前が考えてること、わかんねぇ」
スッと視線が外れ、困惑気味な表情でつぶやく。
「人が折角我慢してんのに……煽るような事しやがって」
「我慢なんて、しなくてもいいのに」
「なっ!? 馬鹿っ、おまっ、何言って?」
「我慢なんてしなくていいですよ。私……、アーサーさんになら、何されたって構わないです」
自分でも、とんでもないことを言っているなぁと言う自覚はあった。けれど、一度口をついて出た気持ちは止めることが出来なくて腕を伸ばしてアーサーさんの白い肌にそっと触れた。
途端にビクッとアーサーさんが小さく震える。
「それ、マジで言ってんのか?」
「冗談でこんな恥ずかしい事言いません」
言いながら思わず赤くなってしまった。それにつられた様にアーサーさんの顔もじわじわと朱色に染まっていく。
「アーサーさん、顔が真っ赤ですよ」
「うるせーっ! 菊だって同じじゃねぇか。あ〜、チクショウ! 菊はあんま興味無さそうだったから、お前を傷つけたらまずいと思って菊の前では紳士的でいようって決めてたのに」
「そんなの勝手です! 私はアーサーさんが好きで……っ、アーサーさんになら色んな事されても構わないって思って……貴方に大切にされてるのはわかってたけど、腫れものを触るように扱われるのはもう、嫌なんです!」
「菊……そんな事思ってたのか」
今初めて知ったと言うような顔をして、髪に頬にこめかみに額に、優しいキスが何度も降り注ぐ。
「本当に、いいんだな?」
怖いくらいの真剣な眼差しが真っ直ぐ私を射抜く。
「いいです……」
「俺、多分めちゃくちゃお前を求めるぞ。いいのか?」
「……それでも、いいです。そしたら、それだけアーサーさんが私の事思ってくれているって事でしょう? アーサーさんになら、何されても……っ」
言葉は最後まで続かなかった。貪るように唇を奪われ、情熱的な口付けに体温が急激にあがった。どうしよう、身体が熱い。
「ん……っふ……っ」
息継ぎの合間に割り開いたほんの少しの隙間も惜しいほどに口付けられて頭の芯がボーっとなる。
「菊……」
目を開けると、熱っぽく潤んだアーサーさんの瞳が見える。愛しげに苦笑され、ドキリとした。
「参ったな。そんな可愛い事言うと、マジで抑えられなくなっちまう」
「かわ……っ」
私の何処が可愛いと言うのか、理解出来ない。けれど、アーサーさんが求めてくれるなら嬉しいし、それに応えたいと思う。