No title
(菊side)
入浴を済ませ部屋に戻ると、アーサーさんは既に布団の中へ入ってしまっていた。
「もう寝ちゃったんですか?」
「ん? 別に……することねぇから横になってただけだ」
言いながら、壁に背を向けている。
「……そうですか……」
仕方なく、私も横になるとアーサーさんの身体が大げさなほどびくりと跳ねるのが解った。
意識してくれているようでなんとなく嬉しい。
だけど、こっちを向いて欲しいのに、アーサーさんは私に背を向けたまま。
こんなに近くにいるのに、触れて来ない。
やっぱり人がもう一人入れそうな二人の間にあるこの空間がもどかしい。
私、そんなに魅力ないんでしょうかねぇ。
アーサーさんだって私のこと好きな素振りだったし、布団を近づければ少しは積極的になってくれると思ったのに……。
洩れそうになる溜息を押し殺しアーサーさんに背を向けて布団に潜り込む。
「……アーサーさん」
「なんだ?」
「もう少し強引でも……いいと思いますよ」
「お、おう! ……って、ええっ!?」
思い切って言ってみたら、アーサーさんが素っ頓狂な声を上げて跳ね起きた。
背中越しにアーサーさんの視線を痛い程感じる。
「なっ、なっ! 菊おまっ、何言って……っ!?」
きっと耳まで真っ赤に染めて、口をぱくぱくさせるアーサーさんの顔が容易に想像できて思わず吹き出しそうになってしまった。
ごくり、と喉が鳴る音が室内に響く。
「なんでもないです。……おやすみなさい」
「ちょっ、待てよ! もう少し強引にって……どう言う……」
「――っ、言葉のままです。あとは察して下さいっ」
言いながら、なんだか恥ずかしくなってしまった。自然と赤くなってしまった頬を隠すように布団を目深に被り、目だけを出してアーサーさんの様子を伺うと自慢の眉毛がはの字になって困惑したような表情を浮かべている。
やっぱり、迷惑だったでしょうか? アーサーさんが私に気があるんじゃないかと言う憶測は私の勘違い? だとしたら、さっきの発言は恥ずかしすぎます。