No title

「アーサーさん、随分と長く入っていましたね」

風呂から上がると、菊はのんびり茶を啜りながら漫画を読んでいた。

「あぁ。景色がよかったもんでつい長湯しちまった」

まさかお前をオカズにナニしてましたとは言えずに、思わず視線を逸らしてしまう。

自然と頬が熱くなる。

すると、何かに気がついたのか手にしていた漫画を置くと、菊がゆっくりと立ち上がり俺の正面にやってきた。

「な、なんだ?」

「浴衣の着方がぐちゃぐちゃですよ」

「っ!」

するりと紐が解かれて、俺の腰に腕が回る。菊が俺に抱きつくような体勢がなんとも心臓に悪い。

ほのかに香る菊の臭いが鼻腔を擽り心臓が激しく脈打ち始める。

くあぁっ、このまま抱きしめてぇっ……!

抱きしめて、この陶器のような滑らかな肌に触れて今すぐにでも唇を奪ってしまいたい――。

「はい、できました」

「――っ」

いきなり菊が顔を上げたから、俺は慌てて伸ばしかけていた指を引っ込めた。

菊は一瞬不思議そうな顔で俺を見ていたけれど、直ぐに身体を離して、はにかんだような笑顔を向けた。

「では、私もお風呂に行って来ますね。お布団は敷いておきましたから……」

「おぅ。いつも悪いな」

あらかじめ用意してあった寝間着を片手に風呂場へと向かう菊を見送り、俺はそっと息を吐いた。

やばかった。菊の臭いだけでまた反応しそうになってしまった。

菊って、すげぇいい匂いがするんだよな……。

まだ落ち着かない鼓動に苦笑しつつ、寝所へと向かう。


「――って、なっ、なっ! なんじゃこりゃっ!?」

何気なくふすまを開いて、中を覗き込み思わず驚愕の声を上げてしまった。

何時もどうり敷かれた俺の布団にピッタリとくっつくようにもう一枚布団が敷いてある。

つか、コレは近すぎじゃねぇ!? 

こんなに近くに菊が寝るなんて、拷問以外のなにものでもねぇ。

俺に寝るなと言っているのか!? 菊が敷いたんだからただの偶然って事はないだろうし、菊の考えていることが全然わからねぇ。

菊のヤツ一体どういうつもりでこんな配置を……。

「アイツ一体何考えてるんだよ。俺にどうしろと……」

目の前に仲良く敷かれた布団を眺め、俺は思わず頭を抱えた。


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