「菅原さん、俺のシャツ着てくれませんか?」
「は?」
ある日突然、影山が妙な事を言い出した。
なんでも、クラスメートから彼シャツは神萌えだ。と、話しているのを偶然聞いてしまったらしく、興味を持ったらしい。
「別に着てやってもいいけど、多分オレお前とサイズ変わらねぇべ? アレはぶかぶかだから萌えるんだろ。サイズ一緒なら意味ねぇだろ」
着るくらいならお安い御用だが、そんな事で萌えるかどうかまでは保障出来ない。
そう言ったら、影山はショックを受けたらしくがっくりと肩を落とした。
そこまでがっかりされるとオレだってショックだっつーの。
「男で悪かったな。まー、他に好きな女が出来た時にでも試してみりゃいーじゃん」
「俺、菅原さん以外に好きになる人なんていませんから!!」
「っ!」
がしっと手を握られ、真っ直ぐに見つめられて息が止まりそうになる。
顔がどうしても赤くなってしまい、影山を真っ直ぐに見ていられなくなった。
チクショウ。嬉しい事言ってくれるじゃん。
「――菅原さん――」
甘さを含んだ声で名を呼ばれ、顎をクイッと引き上げられる。嫌でも目が合ってしまい心臓が口から飛び出してしまいそうになる。
引き合うように唇を寄せ合い、ゆっくりと距離が縮まっていく。
そして――。
「忘れ物!!!」
突然、威勢のいい声と共に、部室のドアがバーンと開きオレらは頭を引いて互いに距離を取った。
「あれ? 影山まだいたのか……あ、菅原さんも」
「日向ボゲェ!!!!」
「わっ、えっ!? なんだよ!?」
キレる影山に意味がわからず目を白黒させる日向。
恥ずかしくて、居た堪れなくて。オレは苦笑しながら慌てて服を鞄に詰め込んで部室を出た。
「じゃぁオレ、帰るな! お疲れ〜」
「あっ!? 菅原さんっ!」
さっきの、ドアを開けたのが日向で良かった。あれがもし、大地とか月島達だったら……考えるだけでもぞっとする。
オレ達の関係は秘密だから。何をしようとしてたのか? なんて聞かれたら言訳出来ない。


「――あ、あれっ?」
自分の部屋に着き、練習着を洗濯しようと鞄の中を探っていると、明らかにオレのではないシャツが一枚混じっていた。
あ……これは、多分影山のだ。
さっき適当に詰め込んだから一緒に混じってしまったんだろう。
「彼シャツ、ねぇ……」
何気なく手に取ってジッとそれを見つめる。ついさっきまで影山がコレを着ていたと思うと、なんだか急に変な気分になってしまった。
シャツに顔を埋めると柔軟剤の香りに混じった影山の匂いがする。
オレ、なんかヘンタイっぽいよな。わかっているけれど一度芽生え始めた感情を抑える術なんて知らなくて、何度もシャツの匂いを嗅いだ。
「影山の匂い……やっべ……」
『俺のシャツ、着てみてください……』
不意に、さっき影山に言われた言葉を思い出した。
こんなこと、シちゃいけねぇのはわかってたけど、どうしても込み上げて来る気持ちを抑えきれなくて、ドキドキしながらシャツに袖を通すと影山に抱きしめられたような錯覚を覚え手は勝手に下半身へ――。