「菅原さん、今度の土日、二人で温泉行きましょう」
部活からの帰り道。ようやく二人きりになれたと思ったら、部の後輩で恋人でもある影山飛雄から突然そう切り出された。
半歩先を歩いていた菅原孝支の足が止まる。
「相変わらず唐突だな〜影山は、どうした?」
話しに主語が無く、唐突に会話が始まるのは何時もの事だ。最初の頃は戸惑う事も多かったけれど最近は随分慣れた。
「この間、商店街の福引でペアの宿泊券が当たったんです」
「へー、そりゃすげぇな」
「だから、一緒に行きましょう」
ガシッと両手を掴まれて、どきりとした。自分と一緒に行きたいと言ってくれることは素直に嬉しい。
「ダメっすか?」
「ダメ、じゃねーけど……フツ―、そういうもんは両親にプレゼントするもんだろ?」
滅多に行けない旅行だ。どうせなら親に渡す方がいいんじゃないか?
もし、自分が同じ立場ならきっとそうするに違いない。
「……でも俺は、菅原さんと行きたいんです」
真っ直ぐ、迷いのない目や言葉に息が止まりそうになる。
自分だって行きたくないわけじゃない。ただでさえ二人きりになれる時間は少ないし、旅行なんて凄く楽しそうじゃないか。
「本当に、オレでいいのか?」
「菅原さんとじゃなきゃ行く意味ないっす」
そこまで言われたら、嫌だとは言えない。 
嫌なんですか? と不安げに顔を覗き込まれて菅原は慌てて首を振った。嫌なワケないじゃないか。
「じゃぁ……!」
「取り敢えず、ウチのかーちゃんに聞いてみるから」
「あざーっす!」
パァッと、影山の表情が一気に明るくなり、思わず苦笑した。
一緒に行けるのをそんなに喜んでくれるなんて。どうしよう、顔がにやけてしまう。
頬の筋肉が緩んでしまいそうになるのを悟られないように、ゆっくりと歩き出す。
繋いだ左手から、影山の温もりが伝わって来てなんだかドキドキしてしまう。
(二人きりで旅行……かぁ……)
「……菅原さん」
名を呼ばれ、ひやりとした指先が伸びて来て顎をくいと持ち上げられた。
ちゅ、と言う軽いリップ音と共に唇に生暖かい感触が触れ、同時に強く抱きしめられた。
鼻腔を擽る影山の香りや温もりを感じ体の芯が熱くなってしまう。
「俺、楽しみにしてますから!」
「……ッ」
こんな道端で抱き合ったりして、誰かに見られたらどうするんだ。とか、まだ完璧に行けると決まったわけじゃないのに。とか、言いたいことは多々あったけれど、
言葉は全て呑み込んで返事の代わりにそっと背中に腕を回した。