入浴後、部屋に戻ると影山は未だに規則正しい寝息を立ててぐっすりと眠ってしまっていた。
(少しだけ、期待してたんだけどなぁ……)
せっかく人目を憚らずに二人きりになれたと言うのに。
一人でいつまでも起きていても仕方がない。諦めて空いている方の布団に入ろうかと思ったがせっかくなので、影山の側へと潜り込んだ。
そっと影山の背中に寄り添うようにして横になる。
自分より少し大きな背中は、浴衣を着ていても風格がある。自分はいつまでこの背中に触れることが出来るのだろう?
今は手を伸ばせば触れられる距離に居るけれど、あと数年もすればきっと自分の手の届かない存在になっているに違いない。
その時自分は、心から応援してやれるのだろうか? 逞しい背中を見ていると考えなくてもいい事まで考えてしまう。
深入りしてはいけない。影山は未来ある少年だからいつでも自分から身を引いてやれるようにしておかなくてはいけないのに。
頭ではわかっているけれど、どうやらいつの間にか、自分が思っている以上に影山の事を好きになってしまっていたらしい。
そう遠くない未来の別れを考えると胸が苦しくて泣き出してしまいそうな気分になる。
(離れたく、ねーな……)
こつん、と背に頭を擦りつけ影山の浴衣の裾をぎゅ、と握る。
鼻腔を擽る影山の香りにドキドキして胸がきゅぅっと引き絞られるように痛んだ。
「ん、……あ、あれ俺いつの間に……って菅原さん?」
「お、ぉお。起こしちまったか。悪い」
もぞもぞと動く気配がして、慌ててくっついていた身体を離そうとしたけれどくるりと体の向きを変えた影山に抱き留められてしまった。
「サーセン。起きて待ってようと思ったんですけど」
ちゅ、と額に柔らかな感触が降って来る。
「いや、オレが勝手に始めた勉強だし、むしろ起こしちまって悪かったな」
「謝らないで下さい。菅原さんは受験だから仕方ないです」
ちゅ、ちゅっと触れるだけのキスがこめかみからゆっくりと降りて来て唇に触れる。誘い込むように口を開けばそれを待っていたかのように熱い舌が口腔内に滑り込んで来る。
「ん、ん……」
真上からのキスは自然と深くなり、そっと影山の背に腕を回してそれに応える。
「菅原さん、なんかすげー石鹸のいい匂いがしますね」
「っ、そりゃさっき、風呂に行ってきたからだろ」
「一人でっすか?」
「あー、うん。起こすのも悪いと思ったから……」
そういうと、影山の眉間にぐっと深い皺が寄った。
「他に誰も入って無かったですよね?」
「へ? いや……おっさんが何人かいたけど」
「オッサンに裸見せたんっすか!?」
「見せるって……。いや、裸になんねーと風呂はいれねぇし」
「そんなところに一人で入るなんて、襲われたらどーするんっすか!?」
「そっち!?」
一緒に行かなかった事を怒っているのかと思ったら、どうやら違ったらしい。
「襲われるわけねぇべ。つか、オレの裸みて興奮すんのはお前くらいなもんだっ……てッ」
全て言い終わるより早く首筋にちくりとした痛みを感じた。
熱い唇が首筋から鎖骨、胸へと降りて来て赤い徴を散らしていく。
「ぁ、バカ! 痕つけんなって……」
「菅原さんは俺のモンだっていう証です」
ギラギラした瞳に捉えられ、一瞬息をするのを忘れてしまいそうになった。
なんだか無茶苦茶な事言われたのに、少しだけ嬉しいと思ってしまった自分に戸惑ってしまう。
そのまま、胸の飾りに吸い付かれ、舌で乳首を転がすようにされて甘い疼きが沸き起こる。
「ん、ぁッ」
さっき中途半端のまま終わってしまったせいもあるだろうか? 生暖かい舌の感触の感触にゾクゾクするような甘い痺れが全身を駆けた。
「ぁっ、ぁあっ」
舌と指で巧みに刺激を与えられてビクビクと腰が跳ねる。シーツを掴んで堪えていると影山が息を呑むのがわかった。
「菅原さんすげーエロいッス」
「エロくねぇし!」
腰、揺れてますよと耳元で囁かれカッと頬が熱くなる。胸に吸い付きながらするりと太腿を撫でられて、一際鼓動が早くなった。
付け根の方へと手が滑り落ちて来る感覚に、慌てて浴衣の裾で隠そうとしたけれど、影山の指が性器に絡む方が早かった。
「菅原さん……下、履いてないんっすか?」
言われて菅原は茹でたタコのように真っ赤になった。さっき風呂場で、もしかしたらこういうコトになるかもしれないと敢えて履かなかったのだけれど、改めて言葉で言われると恥ずかしくて仕方がない。
「や、その……えっと、パンツあると邪魔かなっておもって……その……っ」
蚊の鳴くような声でそう答えると、影山が小刻みにワナワナと震え出した。
もしかして引かれてしまっただろうか? 
「影、山……?」
不安になって見上げると噛み付くような激しいキスをしてきた。
息継ぎの合間も惜しむように、熱い舌が口腔内を蹂躙し自分のそれと絡み合う。
「ん、んふ……ん、んんっ」
貪るようなキスに息をするのもままならず、苦しくなって影山の浴衣をぎゅっと掴んだ。
「菅原さん、マジやべぇ」
「はぁ、はぁ……え?」
一瞬何を言われたのかわからず、息を整えていると突然両足を肩に担ぐようにして持ち上げられて腰が浮く。
あ! と思う間もなくすっかり臨戦状態になった影山のモノを後孔に押し当てられ息が詰まった。
「ん、ぁあっ、ちょ、まっ……」
「サーセン、俺もう我慢できません!」
強引に、熱い塊が押し入って来る。物凄い圧迫感は何度身体を合わせても慣れることは無く、菅原の表情が苦悶のソレに変わる。
「ぁっ、はぁぁっ。ッ……。うぅ、……っ」
小刻みに身体を揺すられ、内臓を圧迫されるような苦しさに小さく呻き声が洩れる。
そのたびに、すみませんと謝る影山の姿が可笑しくて、汗で張り付いた前髪を掻き上げると影山の背に腕を回して自分からそっと口づけた。
「謝んなよ影山。まぁ、ちょい痛いけどそれって、そんだけお前が求めてるって事だろ? オレ、すげぇ嬉しいよ」
「……ッ」
「昼間も中途半端だったしさ……その、オレもシたかったし……」
視線を逸らしながら思わずモゴモゴと口ごもってしまう。
「あんま、俺を煽るのよくないです」 
「や、別に煽ってるつもりじゃ……ぁあっ」
ごくりと息を呑む音がして、影山が状態を倒して来る。すっかり覚え込まれた菅原のイイ所を突き上げられると、途端に体中に痺れが走って自分ではどうしようもない衝動が体の中を駆け巡る。
無意識に背中を反らして逃げようとするがしっかりと抑え込まれていて身動きが取れない。
「ぁっんんっ、ふ、ぅぅっ」
もう痛みは感じなかった。むしろ強すぎる快感にあられもない声を上げてしまいそうになって、慌てて手で口元を押さえた。
「菅原さん、声我慢しなくていいです」
「や、恥ずかし……ぁあッ」
何度身体を合わせてもこればかりはどうしようもない。
恥ずかしくて仕方がないのに、影山はその一点に絞って激しく突き立ててくる。
「あっ、影山……っそこばっか、やめ……、あっ、んんっ」
どんどん激しくなる行為に言葉は喘ぎとなって甘く広がってゆく。
太腿の内側がブルブルと震えて全身に力が入る。
「あっ、ぁあっ、やばっ……も、だめだって……ぁあっ」
影山が動くたびに結合部から濡れた音が響いて益々興奮が煽られた。
限界が近い事を告げても、影山が止めてくれる気配はなくそれどころか益々激しく身体を打ち付けて来る。
「……ぁっ、んんっぁあっ、イく、ダメだって影山っ」
「イっていいです。菅原さんのイク顔が見たい」
「や、ばっ、ばかっ見なくていいっ……ぁ、ぁあっ」
恥ずかしくて慌てて顔を隠そうとしたがシーツに縫いとめられた。グッと内部を深く一突きされ背中が弓なりにしなった。
ビクビクと足が戦慄いて菅原が精を放つ間、真っ黒な双眸がそれをジッと見つめていた。
その視線にゾクゾクしてしまい目じりに生理的な涙が浮かぶ。
「はぁ、はぁ……も、やだつったのに」
「サーセン。けど、俺まだなんで――」
「へ? ぇっ!?」
文句を言う間は与えて貰えなかった。影山がシーツの上にくったりと投げ出されていた菅原の両手を取り自分の体に抱き付くように巻き付かせた。吐精の余韻が抜けきらない菅原はされるがままに影山を抱きしめる。
肌はしっとりと汗ばんで、触れ合うたびに影山の体臭が鼻を掠め興奮を煽られた。
「あん、……ぁっ、あっ」
再び影山が律動を開始する。菅原の腰を押さえつけて激しく突き立てられ、身体が震えた。
「ふっ……、んんっ」
幾度となく口付けを交わしながら何度も打ち付けられ一旦収まっていた筈の情動が再び湧き上がってくる。
「菅原さん、好きです」
突き上げの合間に甘く囁かれ、不覚にもときめいてしまった。
真剣な眼差しで見下ろされ自然と口元に笑顔が浮かぶ。
幸せ過ぎて、身体がドロドロに溶かされてしまいそうだ。
これから先の事なんてどうなるかわからないけれど、今、この瞬間の幸せを噛みしめていたい。
「オレも、お前が好きだよ――」
そっと囁きながら菅原は全身の力を抜いた。



(――腰が、超痛てぇ……)
翌朝、菅原は布団に突っ伏したま落ち込んでいた。
盛り上がっているうちは良かったものの、腰から来る鈍い痛みに昨夜は流石にハメを外し過ぎたと自己嫌悪すら覚える。
結局、いつ眠ったのかすら覚えていない。朝になってキスをして気が付いたらまた――。
(ぅあああ、いくら誰にも邪魔されないからって、どんだけだよ!!)
情熱的すぎるあれやこれやを思い出し、顔から火を噴き出してしまいそうになる。
「菅原さん、どうかしたんですか?」
隣で横になっていた影山が不思議そうにそう尋ねて来た。
「おー……影山ぁ。お前、昨日何回ヤったか覚えてるか?」
「え? 4回っすかね。あぁ、朝イチで2回しましたね」
それがなにか? と、首を傾げる影山にがっくりと頭を垂れる。
「マジ、やりすぎだべ」
「サーセン。菅原さんが可愛すぎて止まらなかったんで」
さも当たり前のようにそう言われ、そっと抱きしめられた。額にちゅっと軽くキスをされたら不覚にもドキリとしてしまう。
「可愛くねーし! つか、風呂行くか? 汗でべたべたしてて気持ち悪い」
「そーっすね」
「じゃ、大浴場な。貸切は遠いし」
「いいっすけど……菅原さん、大丈夫っすか?」
一瞬、何が? と、思ったが。ちょい、と首筋を撫でられ改めて自分の身体を見てぎょっとした。
首筋、だけでなく至る所に赤い徴が点在している。太腿の内側にまで付いているのを発見しカァッと頬が熱くなった。
「おまっ、痕付けすぎだろ!」
「菅原さんに変な虫が付かないようにしようと思って」
「だから、オレ見て変な気を起こすのはお前だけだって……」
言いかけてがっくりと肩を落とした。
少し遠いけれど貸切風呂へ行くしかなさそうだ。
「言っとくけど、今日はもうヤんねぇからな! 風呂場で変な事したら1週間はナシだぞ!」
「……ッス!」
頬が緩み切っている今の影山には何を言っても無駄だと思いつつ、一応釘を刺しておく。
「じゃぁ風呂、行きましょう」
スッと差し出された手を「仕方がねぇな」と呟いてそっと握り返した。