No title

願いを叶えて


早朝。

けたたましい機械音で目が覚める。

「……んー…おはよ…ございます……」

「おー、はよ」

「どーしたんすか、こんな朝っぱらから…」

「あれ、初詣行くぞ、高尾」

「………まじすか」


宮地サンの拒否権無しのお誘いによって、俺はまだ日も浅い朝っぱらからこの寒い外に出ることになった。
いやまあ、断りなんてしないんだけどさ。


「よー」

「ふあ…、ども」


宮地サンの言葉にあくびをしながら返すと、頭をわしゃわしゃとかき混ぜられた。行くか、と声をかける宮地サンに合わせて歩き出す。


「寝てたんだな、意外だわ」

「俺だって寝ますよ?」

「や、ほら、お前テンション上がってオールとかしてそうだからさ」

「あー、流石に練習あったんで…取り敢えずあけおめのメールを一斉送信して寝ました」

「一斉送信したの?お前」

「はい、宮地サンの以外」

と笑う高尾。

「まあ、確かにあれ他のやつにも送られてたら、容赦無く轢くわ」

「あははっ、しなくて良かったっす」

皆には"明けましておめでとう御座います。今年も宜しく"程度の簡単なメールを、宮地さんには別に、少しこう、愛の言葉と言うか?そういうのを混ぜて送った。
さすがにそう言う内容のメールを他に送ったりしたら、まあまず自分の身が危ない。非常に。

「つーか、何でこんな早くなんですか。まだ眠いんすけど、俺…」

言いながら欠伸を一つ漏らす。
ちら、と見上げた宮地さんもまだ少し眠そうで。わざわざこんな早くに行かなくても、と思っている所に意外な宮地さんの一言。

「早く行ったら人少ないだろ…そしたらお願いよく聞いてくれそうじゃね?」

一瞬、宮地さんの顔を見て唖然とする。次の瞬間、ぶはっと吹き出し笑いが止まらなくなった。

「高尾クン?お前なに笑ってんだおい、轢くぞ」

「ぶっふぉっ、え、轢かないで下さ、ぶはっも、ひぃww」

爆笑していると宮地さんに頭を拳でぐりぐりとされ、痛みに悲鳴を上げる。

「あいだだだだだ、すいませんすいません!」

「笑すぎなんだよ、馬鹿」

と言って宮地サンは離してくれたけど、その前に一発しばかれたのは結構痛かった。

「いやー、あれですよね、宮地サンってやっぱ可愛いっすよね」

「は?もう一発いっとくか?ん?」

「わーーっ、すんませんすんません!遠慮しまっす!」

「ったく…」

溜息を吐きながらも拳を収めてくれるのが宮地サンの優しくて良いとこだと思うんだよ。
何だかんだ優しいとこが凄え好きとか何とか。

「女子か」

「なにが?」

「や、なんでもないっす」

「?」

訝る宮地サンにへらりと笑ってみせればと納得したのか一つ頭を撫でて別の会話を持ち出してきた。

「つかさ、神社遠くね?」

「そうっすか?…俺らがゆっくり歩いてるからじゃないですか」

「ふーん、そんなもんか…高尾」

突然名前を呼ばれ、はーい?とそちらを向くと、ん、と言って宮地さんが差し出して来たのは、宮地さんの綺麗な右手。
意図が掴めなくて宮地さんの手と顔を交互に見ていると、舌打ちしてからその手で俺の左手をしっかりと握られた。

「、宮地さ…」

「いいだろ、別に。どうせ人いねえんだし」

「…へへ、はい。ありがとうございます」

恋人つなぎに絡め直された指をぎゅ、と握って俺は幸せに微笑んだ。


そしてついた神社には、いくら早朝と言えど人がたくさん居て、良く今まで人と会わなかったものだと驚いた。
流石に繋いだ手をそのままにしている訳にもいかず、離された手をつい、じっと見つめた俺は、外の冷たい空気に冷やされてその手から宮地さんの体温が無くなっていくのを感じ、慌ててそれをとって置くようにコートのポケットに手を突っ込んだ。
宮地さんはそれを何も言わずに見てたけど、もう片方の手を取って背中の方へ導いてくれる。それに甘えてコートを掴ませてもらう。
人、多いですもんね。
こうやって無言で俺のために示してくれるのがまた優しくて男前だと思う。

「あ」

「あ?」

境内に向かって歩いているとあるものを見つけて短く声を上げた俺を、宮地さんが怪訝そうに見る。俺の視線を追って、ああ、と納得した。

「おみくじ、引くか」

宮地さんの言葉に無言で頷いて、財布から小銭を取り出そうとすると制され、さっさと俺の分も払ってくれた。
本当何なのこの無駄な彼氏力、いや別に無駄じゃ無いけどさあ…この人こそハイスペックと呼ぶべきだと思うよ、俺は。ドルオタだけど。

そんな事を考え乍引いたおみくじには中吉と書かれていてまあまあかな、と思った。所詮こんなものだし、中吉なら悪くは無いだろう。
隣で内容を読む宮地サンのものをひょいと覗けば、そこには大吉の2文字が書かれていて流石、何て思ってしまった。何だかんだで宮地サンは強運なのだ。
おみくじを結びつけに行く途中、大吉は持っていると良いと言う話をする。まあ知っているだろうが、何でも良いからこの人と話したい。
その話を聞いた宮地サンは何かを考える様に軽く目を伏せたが、俺は気にせずさっさとおみくじを結びつけた。それも成るべく高いところに。
目一杯背伸びをして高いところに括り付けたから、運勢がよくなると良いと思う。
それからは、他の参拝客同様に並んでお参りをしたり甘酒を貰ったりと軽く神社を一周した。
お参りの際についしてしまうお願い事は、今年こそ秀徳が優勝してみせます、と言う、お願い事でも何でも無い、唯の宣言になってしまった。
それともう一つ、宮地サンが無事大学に合格しますように。
宮地サンなら大丈夫だとは思うけど、念には念のため。宮地サンは神頼み何て好きでは無さそうだが、俺が勝手にお願いするんだから問題は無いと思う。

「高尾」

行き来た道を今度もゆっくりと歩く。呼びかけに顔を上げた俺に宮地サンが拳を差し出して来たので、よく分からずに拳を合わせたら違えよと笑われた。

「手出せ、そう、手のひら上向けて」

「?」

宮地サンの指示通りに手を出すと、そこに折り畳まれた小さな紙を落とされた。何だろう、と開いてみると、それは先程宮地サンが引いた大吉のおみくじだった。
訳が分からずに宮地サンを見たら

「持ってた方が良いことあんだろ、だから、幸福のおすそ分け」

だそうだ。
やっぱりこの人の思考はどこか可愛いと思うのは俺だけか。

「それやるから今年は優勝しろよ」

言われなくとも。
俺は素直に礼と勿論です、との気持ちを伝えてそれを財布へとしまった。他人のおみくじでも効くのか、とか、良いのかとか思わない事は無いけれど、宮地サンが俺のことを考えてしてくれたことを拒否したくは無いから、喜んで受け取らせて貰う。
そのまま俺と宮地サンは俺の家でまったりすることに決めた。他の家族は帰ってきた時に丁度出掛ける所だった様で、どうやら福袋を買いに行くらしい。母さんと妹ちゃんが大分テンションを上げていたので、あれではそう直ぐに帰って来ることは無いだろう。そして荷物持ちをやらされる親父には素直に礼を言う。
生きて帰ってこいよ、親父。

「かずなり」

呼ばれた名にピクリと肩を反応させる

「なーんです、清志さん?」

こて、と首を傾げて見せると手招きされ四つん這いで這いよると、ちゃっかり炬燵に入って胡座をかく宮地サンの膝を示された。
座れと言いたいのだろうか。
仰せのままにー、と呟き乍膝に乗っかると、満足げに腕を回されるからその大きな手に自分の手を重ねる。
暖かくて気持ちいい、皮膚に馴染む手。大好きな手。

「ねーえ、清志サン」

背中を宮地サンに預けぐりぐりと頭を胸に摺り寄せる。
んー?と間延びした返事が返って来て、さりさりと宮地サンの手に爪を引っ掛け乍、俺ね、と繋げる。

「一つ、神様にお願いしなかったことがあるんです。
何より叶えて欲しくて、でも、俺には凄く勿体無い気もするお願い」

そしてそれは、神様には叶えられない。
ねえ清志サン、叶えてくれますか?

黙って続きを待つ清志サンに薄く微笑み乍告げる。

「今年もずっと、貴方と一緒にいたいんです」

叶えてくれます?と見上げると、照れた様な呆れた様な、そんな顔をした清志サン。
はあ、と溜息をつかれる。
ちょっと、傷つくんですけど。

「じゃあ、それ叶えてやる代わりに俺のお願いも叶えろよ」

「清志サンがお願いって言った…!!」

「……」

「あっちょ苦し!苦しいっす清志サ、しぬ!!」

無言で微笑んだ清志サンからギリギリと首を絞められ生死の境を彷徨いました、まる。清志サンの膝に座ってるから逃げらんなかったわ…。

「で、聞くの、聞かないの」

腕を外した清志サンは代わりと言う様に後ろから頬を挟んで遊んで来る。おいこら、変な顔になるんですけど。

「ききまふよー、きよひひゃんのおねがい」

「じゃ、一生傍にいろ」

ぱちくり。目を瞬かせて清志サンを見る。清志サンはなんだよ、と言う顔で見てくるが、俺は。

「一生…?」

「なに、叶えてくんねえの」

「いや、そうじゃ無くて、本当に本当に一生?清志サン結婚しないの?」

「するよ、お前と」

「いや出来ませんよ!?」

「知らん、する」

「頑固!!」

けらけらと笑う俺に溜息をつく清志サン。方頬をグイグイと引っ張られ悲鳴を上げた。

「もー、手出んの早いっすよ、清志サン」

「うるっせえ。で?
お前は叶えてくれんの」

ぎゅ、と抱え込んでくる清志サンの頭を撫で乍微笑む。
そんなものは、決まっている。

「仰せのままに、清志サン!」


ね、何があっても一緒に居ましょうね。俺、貴方のこと離しませんから。だから、貴方も俺のこと離さないでね、未来の旦那様?




end

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