No title
「じゃーんけーんポン!」
せーので出した手は、オレがチョキで高尾がグーだった。
「なっ!?」
「よっしゃー!!!! 初めて勝った!」
「……っ」
このオレが……負けた!? 信じられん……。
「真ちゃーん♪ 約束、忘れてねぇよな?」
「……何の話だ」
「とぼけんなよ。俺が勝ったら真ちゃんをヤるって話だろ」
ニィっといやらしい笑みを浮かべて高尾がオレの顔を覗き込んでくる。
「そういえばそんな話もしたな。だが、今日はもう遅いから――……」
「男に二言はねぇよな?」
「くっ」
畳み掛けるようにそう言って心底嬉しそうな顔をする高尾の姿に、思わず深いため息が洩れた。
どうやら逃がしてやるつもりは毛頭ないらしい。
「……フン、勝手にしろっ」
「じゃ、遠慮なく……」
オレが手に持っていた本を取り上げると、ゆっくりと高尾の顔が近づいてくる。
「――っ……」
無意識に引いてしまった顎に指がかかり、持ち上げられ軽く唇が触れあった。
ちゅ、ちゅっと軽い水音を立てながら次第に口の中へ高尾の舌が滑り込んでくる。
落ち着け……ここまではいつも通りじゃないか。
口の端から溢れた唾液をすする生々しい水音も、扇情的なキスも全ていつも通り。
何も……何も変わらないのだ。
自然と早くなっていく鼓動を誤魔化すように、何度も落ち着けと心の中で呟いた。
ベッドの脇に凭れたままだったオレの胴を跨ぐような格好で濃厚なキスを繰り返す高尾の姿は、それはそれで魅力的だ。
だが、今その瞳に宿っているのは官能に濡れた色ではなく、肉食獣が獲物を狙う時のそれに近い。