No title
「……せっかくだし、たまには一緒に帰るか」
「えっ」
突然の提案にドキッとした。
「んだよ、嫌なのか? つか、断ったら轢く」
「なんすかそれ。俺に決定権なくね?」
穏やかな声とは裏腹の物騒な言葉に思わず苦笑。
「いいだろ別に。用事とか何もねぇんだろ」
「ま、まぁ……そうっすね」
「じゃぁ決まりな!」
宮地さんはニッを白い歯を覗かせて、俺の腕を引く。
まさか、二人きりで一緒に帰る日が来るなんて思ってもみなかった。
秋の陽はつるべ落としとはよく言ったもので、出るときはオレンジ色だった空は少しずつ闇に染まってゆき二、三〇分もしないうちに辺りはすっかり暗くなってしまった。
「ちょっと寄ってくか」
言われるがまま、近くの公園に立ち寄った。昼間はガキ達で賑わっている広場も今は静まり返っている。公園の外灯からの僅かな光が周囲を頼りなく照らしている程度で、冷たい風に揺らめく楓やツタが幻想的な雰囲気を醸し出しているように見えた。
聞こえてくるのは木々の梢がざわめく音と、時々通りかかる車が走り去る音だけ。
「夜に見る紅葉ってのも、中々いいもんだろ?」
車道を通りかかった車のライトが端整な横顔を照らし出した。一瞬だけ闇夜に浮かんだその微笑みが目に焼き付いて、離れない。
なんでだろう、胸がドキドキする。
互いに何も話さないまま、近くにあったベンチに腰を降ろした。何気なく空を見上げると青白い満月が淡い光で夜空を煌々と照らしている。
確かに、頭上に煌めくいくつかの星々と、燃えるように紅い紅葉のコラボなんてジックリ見ることは滅多にない。
誰かと一緒にいて、こんなに何も話さないのは珍しい。でも全然気まずい空気じゃなくてむしろ落ち着く。