No title

時計の針はもう直ぐ0時。

明日も早いからもう眠らなくてはいけない。

「……黒子、まだ大丈夫……なのか?」

「少しくらいなら、平気です」

「朝練あるんだろ」

「……そう、ですね……でも……」

もう少しだけ、火神くんの顔を見ていたいんです。

それは単なるワガママだってわかってる。わかっているけど……。

拭えない心の蟠りにそっと唇を噛み締める。

火神君だってまた直ぐに行かなくちゃいけない。時差の関係で向こうは今、朝のはずだ。

僕が引き止めちゃダメなんだ。

だけど、「じゃぁ、また」って、一言がどうしても出てこない。

数分、互いに何も言わない沈黙が続き、不意に画面の影がユラリと揺らめいた。

「――黒子……」

「え?」

甘い声が鼓膜を伝う。

カメラ越しに火神くんの唇が近づいてくる。

「……あ……」

反射的に目を閉じて僕も同じようにカメラに向かってキスをした。

触れるだけのキスは冷たくて、余計に恋しさを募らせてしまう。

「おやすみ。もう、寝ろよ」

火神くんの優しい声が響いても、僕はレンズの側から離れられないでいた。

「黒子?」

「…………ずるいです」

「?」

「僕っ、ずっと我慢してたのにこんな……っ」

こんな冷たいキスなんかじゃ到底満たされるはずはない。

わがままを言っているのはわかってるけど、もう抑えられなかった。

「火神くん……僕っ、火神くんに会いたい! 会いたくて仕方がないんです!」

「黒子……」

「こんな冷たい、キスじゃ嫌だ。 会って、君の温もりを直に感じたい」

抱きしめて、キスをして、それからその先も……。

無茶だって理解してる。

こんなこと言ったって火神くんを困らせるだけだってわかってる。

それでも、溢れる思いを止める事が出来なくて知らないうちに頬に涙が伝っていた。

「……っ、俺も……」

「え?」

「俺だってお前に会いてぇよ。 出来る事なら、今すぐにでも飛んでいってやりたいくらいだ……」


切なげに呻くような声が響く。

それが出来ない悔しさからか火神くんの眉間に大きな皺が寄る。

「WCまであと少しだ。それまでには必ず戻る……」

それまで、我慢していてくれないか。

僕の頬を撫でるように映像の火神くんの手が伸びてくる。

火神くんだって、我慢してるんだ。

僕に会いたいと思ってくれている。

そう思うと、胸がいっぱいになる。

「……っ遅れたら許さないですから」

「あぁ、わかってるよ!」

WCまであと数日。 それまで、僕らの関係はオアズケだ。

「待ってますから、早く来てください」

一日でも早く、君に会えるよう願いを込めて、僕はカメラに向かってもう一度キスをした。


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