No title
火神くんに会いたい……。
二度目の合宿が終わってから、僕に何も言わずにアメリカへ行ってしまった火神君。
WCには間に合うように帰ってくるって言っていたけれど……。
会えるのはパソコンのカメラ越しに映るテレビ電話の中だけだ。
部屋に戻ると、ひやりとした空気が頬を撫でた。
薄暗い部屋の明かりを付けて、僕はPCの電源を立ち上げる。
「火神くん……っ」
会いたい、今すぐに会いたい……っ。
僕の中で火神さんが不足してる。
相手が居ないままの画面に額を付け、ひっそりと息を吐く。
火神君に会える約束の時間まであと十分ほど。
もう少し待てばこの画面に彼の姿が映るはずだ。
ところが、焦っている時ほど時間はちっとも進まないもので、その十分がとてつもなく長い時間のように思えてくる。
早く……早く。君の顔が見たい。声が、聞きたい。
考えれば考えるほど胸がグッと苦しくなって、気持ちを落ち着かせるために横に置いた紅茶を少し口に含んだ時、ようやく画面に見慣れた顔が現れた。
「悪りぃ。遅くなっちまった! 待ったか?」
「……いえ、僕もついさっき付けたばかりです」
毎日パソコンに取り付けたカメラ越しにお互いの姿を確認しているはずなのに、火神君の声を聞いただけで嬉しくて涙が出そうになる。
「んだよ、すげー面して。泣いてんのか?」
「……っ、違います。レモンティにしようとしてレモンが目に染みただけです」
まだ湯気の立つカップを見せると、火神くんは「なんだそりゃ」と、笑った。
火神君が鈍感で本当よかった。
「なんか辛い事があったら、遠慮せずに俺に言えよ」
「……はい」
君に会えないのが一番辛い。こんな冷たい画面越しじゃなく、君のぬくもりが恋しい。
でも、言っても無理なのはわかっているから、僕は小さく頷くだけだ。
画面の中の火神君はいつもと変わらず笑っているから、僕も出来るだけ笑顔を作る。
暫くは他愛のない日常会話をしていたけれど、あるときフッと会話が途切れた。