No title
しばらくして体育館に戻ってきた伊月は、カンカンに怒っていた。
見た目は普通だが、日向に対する態度が明らかに冷たい。
「な、なぁ伊月ぃ悪かった!」
「……」
「ほんと、マジでごめんて!」
「……」
伊月はすっかりへそを曲げてしまっているようで、日向と目を合わせようともしない。
縋り付くように伊月について回る姿に、キャプテンとしての威厳は全く感じられず、他の部員たちは何事かと二人の様子を遠巻きに見つめていた。
「伊月〜、マジ! マジでもう二度としないから! 許せってっ!」
「日向……」
「な、なんだ?」
ぴたりと立ち止まった伊月がゆっくりと振り返る。顔は笑っているものの、目には怒りの色を濃く滲ませて、全てを凍てつかせるような冷たいオーラを発しながら日向に視線を向ける。
「その言葉、この間も聞いたんだけど……お前の“二度と”は一体何回あるんだろうなぁ?」
今度は絶対に許さない! と、そっぽを向いた伊月は水戸部と仲良くパス練習をしている小金井達の元へといってしまった。
「伊月〜〜っ」
「コガ! 1on1しようか」
「へっ? で、でも……日向は?」
「あ? いいよほっとけば。あんな奴」
ニッコリと笑いながら誘われて小金井の頭に「?」マークがいくつも浮かぶ。
(……日向、一体何やったんだよ)
日向に対し徹底無視を決め込んだ伊月は、その後数日間、日向に対し「半径二メートル以内立ち入り禁止令」を敢行し、彼と一切口を聞かなかったらしい。