No title
宮地さんって、ホントよくわかんねぇ。
練習中はすげー厳しい先輩で、正直言って怖いと思う時の方が多い。おまけに宮地さんは意地悪だ。あの指先に何度啼かされた事かわからない。
それなのに、さっきみたいに気まぐれで優しくしてくるから俺はそのギャップに混乱してしまう。
「遅せぇよ。何時まで待たせんだ! 吊るすつったろうが」
急いで着替えて部室を出ると、険しい顔をした宮地さんがポケットに手を突っ込みながら壁に凭れて立っていた。
「たくっ、着替えくらいさっさと済ませろっての」
「すんまっせん」
素直に謝罪の言葉を口にしたら、頭をくしゃりと撫でられる。
ちらりと盗み見た宮地さんの横顔は、俺からは逆光になっていて何の表情も読み取れない。
ただ、先輩のハニーブロンド色した髪が夕日に透けて見え、素直に綺麗だと思った。
意外と長い睫だとか、形のいい薄い唇だとかに目が行って視線が釘付けになる。
この唇に俺はいつも翻弄されているんだよな……。
跳ねまわる自分の鼓動が五月蠅く響いて、宮地さんに聞こえてしまうんじゃないかと心配になった。
俺が宮地さんを怖がってるから、こんなにドキドキするんだろうか? でも、今日の宮地さんはなんだか優しい。
「どうした? 変な顔して。俺の顔になんかついてるか?」
「あ、いや……なんでもないっす」
思わず俯いてしまった俺を見て、「宮地さんが変な奴だ」と笑う。
どうやら今日は機嫌がいいらしい。 何かいい事でもあったのか?
例えば、自分の推しメンのサイン入りポスターが当たったとか? 入手困難のグッズが手に入ったとか。今度のライブいい席が取れたとか?
どれもあり得そうなのが宮地さんの怖い所。
こんなにイケメンなのにドルオタとか残念すぎる。
そういえば、宮地さんってどんな娘がタイプなんだろう?
さっきの娘、凄く可愛かったのに断ったって事はああいうのは好みじゃなかったと言う事だろうけど……。
もしかして、好きな人がいたりして?
さっきの彼女を振ったって事は、相当レベルが高いような気がして唐突に、宮地さんの好みがどんな奴なのか興味が湧いた。
「宮地さんって、好きな人とか、いるんっすか?」
「あ?」
「いやね、ほら……さっきの子、超可愛かったのにあっさり振るから、ほかに好きな子が居るのかと思って」
「うるせぇな。どうでもいいだろんな事」
「お? なんすか、その反応! マジで好きな人いたりして?」
珍しく視線を逸らした宮地さんの反応が面白くて、俺は身を乗り出してその顔を覗き込んだ。
目が合うと顔をしかめて俺を睨みつけてくる。だが、そんくらいで怯むような俺じゃない。怖いけど、宮地さんの好きな奴がどんな人か知りたい好奇心には抗えなかった。