No title

伊月の方から誘っている(ように見える)事に早く気付いて欲しい。無自覚での誘惑は拷問以外の何者でもない。

「うーっす!」

「おはようございます」

微妙な空気を一新するような火神達の声が部室に響いた時、日向は心底ホッとした。

「おせーよ! お前らっ!」

「え? でもまだ、練習まで二〇分以上あるよ日向……」

「あぁ? なんだって? 小金井。キャプテンより後に来るとか有り得ねぇだろうがっ!」

確かにまだ予定開始時刻まで十分過ぎる程余裕はある。

「悪いな、コガ。なんか今日の日向変なんだ。気にすんな」

お前が鈍いから苦労してんだよ! と、叫べたらどんなに楽だろう。

彼シャツを着て小金井の肩にぽんと手を置く伊月を見て、日向は頭痛を感じた。

「お、伊月今日はいつものシャツじゃないんだな」

「あぁ、シャツ忘れちゃってさ、日向に借りたんだ」

少し恥ずかしそうに伊月が頬を掻く。

「へぇ〜、なんかお揃っていいよな」

「オレ、淡い色のシャツとかあんま着ないから、なんか変な感じがするけど……ハッ!」

「え? 伊月何どうした?」

「淡いシャツはワイシャツ! キタコレっ!」 

どことなく嬉しそうにダジャレを披露する伊月の姿を見て、胸にちくりとしたものを覚えた。小金井はただのチームメイトだ。ふと湧いた自分の独占欲に呆れつつも、伊月の心を自分一人に向かせたくて強引に腕を引いた。

「伊月ウザイ。つか、着替えたんなら行くぞ」

「ウザイ? 日向は相変わらず辛口だな。じゃぁコレは? カッターシャツは買ったシャツ」

「……マジうざいからやめろって」

これさえなければ可愛い奴なのに。思わず漏れたため息に苦笑しつつ、伊月の手を引いて体育館へと向かった。


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