No title
部室に入ると、伊月が今まさに着替えようとしているところだった。
「あ、おはよ。日向」
「うっす」
今朝の夢の事もあり、なんとなく気まずい気分で自分のロッカーの前に立つ。
ちらりと横目で伊月を見てみればなんの躊躇いもなく上半身裸になり、カバンの中からシャツを探しているところだ。
ドキドキと早鐘を打ち出す鼓動を深呼吸で誤魔化していると、伊月が困ったように近づいてきた。白い肌が目前に晒され鼓動が一際大きく跳ねる。
「なぁ、日向。シャツ二枚持ってない?」
「はっ?」
「入れたつもりだったんだけど、忘れたみたいなんだ。サイズ、一緒だったろ?」
「……っ」
ああもう、なんで今日に限って忘れるんだよお前はぁっ!
なんて、心の中で叫びながら視線は伊月の惜しげもなく晒された素裸に釘付け。くっきりと綺麗なラインを描く鎖骨だとか、程よく締まった腹筋、色気の漂う腰などに目がいって思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
そう言えばもう二週間ほどこの身体に触れていない。ここ最近は、予選だなんだと忙しく二人きりの時間を作るのも容易では無かった。
身体の関係が持ちたいと思ってはいても、互いの家には家族がいるし、学校では人目を気にして伊月は中々首を縦に振ってくれない。正直そろそろ限界かもしれない。
「日向?」
不意に声を掛けられてハッと我に返った。
「あ、ぁあ。悪いシャツだったな」
慌てて予備のシャツを手渡すと、伊月がホッとしたような顔をして微笑んだ。
「サンキュ、助かったよ」
その笑顔が夢に出てきた表情とソックリで、内心狼狽えそうになりながらメガネをクイッと押し上げる。
「日向、どうかしたのか? 顔が赤いけど、熱でもあるんじゃ?」
「な、なんでもないから、気にするな」
顔を背けたのに、伊月はわざわざ回り込んできて心配そうに覗き込んでくる。
その無防備すぎる姿に息を飲んだ。
今、この場所にいるのが二人きりだと言う事実に気づいてないのだろうか?
「なんでもないって顔してない」
スっと白い指先が伸びてきて額に触れる。伊月の手が冷たく感じるのは、それだけ自分の体温が上がってしまっているということ。
もちろん熱なんてあるはずはない。至って健康体だ。
むしろ健康的すぎる身体に困っているくらいだ。心配してくれるのはとても嬉しいが、正直言って目のやり場に困まる。
「俺の事はいいからさっさと服を着ろよ」
そうしないと、自分の理性が色々とヤバイ。
「でも……」
「でも、じゃねぇ! いいから着替えろって」
このままでは、本気でロッカーに押し付けて襲ってしまいそうで、日向は慌てて彼から距離を取った。
伊月は、一瞬驚いた表情をしたが、それ以上は何も言わず大人しく日向から借りたシャツに袖を通し始める。
その後ろ姿を見つめ、日向は小さく息を吐いた。
(たく、無理やりしたら怒って口聞かなくなるくせに、こう言う時に鈍いんだよな、伊月……)