No title
ドアを開けると、中から軽快な足音がパタパタと響いてきた。
「お帰り、順平」
「!?」
出迎えてくれたのはなぜか青いエプロンを付けた伊月。
「なっ!? なっ、なにしてんだっ!!? 伊月っ」
「どうしたんだよ。変な顔して……。帰ってきたら『ただいま』だろ?」
上目遣いでそんな事を言ってくる伊月の視線に胸が熱くなる。
「……た、ただいま」
なぜ当たり前のように家に伊月がいるのか、よくわからないままそう言うと、伊月は嬉しそうに微笑んでもう一度お帰りなさい。と、言った。
その笑顔が眩しくて愛しさが込み上げてくる。
「飯、作ってあるから食うだろ? あ、それとも――」
慣れた手つきで日向の上着を受け取りリビングへと向かおうとする伊月の後ろから肩と腰に腕を回して抱きしめ、軽く耳に口付ける。
くすぐったそうに首を縮める無防備な様子に簡単に欲情の炎が煽られて大きくなった。
「飯より、お前が喰いたい……」
耳元で囁けば、伊月の肩がぴくりと震える。
「っ、順平?」
「嫌なのか?」
腕の中の伊月が向きを変え、首に腕が回った。僅かに目元を潤ませてはにかむ姿にクラクラする。
「……イヤなわけ、ないだろ?」
ほんのりと頬を赤く染め、ゆっくりと唇が近づいてくる。そして――。
――ジリリリリリリッ――
耳を劈くほどの大音量にハッと目を開けると、そこは見慣れた自分の部屋だった。
「んだよ、夢か……」
手を伸ばして目覚ましを止め、頭をボリボリ掻きながらどうせ夢ならもっと過激な事をすればよかった。と日向は舌打ちした。
せっかくのオイシすぎる夢だったのに目覚めてしまったのが残念でならない。
それにしても、さっきの伊月は可愛かった。当たり前のように自分を下の名前で呼び、眩しいくらいの笑顔が溢れていた。新婚さん張りの甘ったるい雰囲気を思いだしおもわず頬が緩んでしまう。
(やべぇ、ニヤける)
あんな可愛い伊月に会えるのならもう一度寝直してしまおうかとも思ったが、今日は朝練があった事を思いだし、日向はがっくりと項垂れた。寝直す時間はないが、しっかりと反応してしまった下半身を取り敢えず鎮めなければ、部屋から出ることが出来ない。
夢の続きを妄想しながら、日向は自らの下半身に指を絡めた。