No title

「で? お前は今まで一人で居残り練してたのか……?」

「俺、緑間みたいにすげー才能があるわけでもないから、たくさん練習しないとついていけないんっすよ」

やっぱバスケが好きだし、せっかく手に入れたレギュラーの位置を失いたくはない。

何より、真ちゃんの隣に居るためにはもっと練習しないと無理だ。自分の実力は俺が一番よくわかってる。だから、今のままじゃ駄目なんだ。

俺がレギュラーの中では一番下だって自覚があるから尚更。チームのお荷物にはなりたくねぇし……。

宮地さんは、何か思うところがあったのか「ふぅん」と呟くと俺の手から体育館の鍵を奪い取った。

「あっ、ちょっ……!」

「練習熱心なのも悪いとは言わないけどな、ほどほどにしとけよ? 特にこれから寒くなってくると日が暮れんのも早くなるし」

「それは、わかってるっす……けど」

今のままじゃ駄目だ。まだ、足りない。

「……取り敢えずコレ、代わりに返してきてやるから早く着替えて来いよ」

「え? いいんっすか?」

宮地さんの意外すぎる言葉に、俺は思わず目を丸くした。だって、あの宮地さんが、鍵返しに行ってくれるって……! 今日は槍でも降ってくるんじゃないか? そんな不安さえ湧いてくる。幸い空は晴天で雨一つ落ちてくる気配はないけれど。

「オレも職員室に行く用事があったからついでだよ。その代り、ダッシュでな。オレが戻るまでに着替え終わってなかったら部室の窓から一晩吊るすぞ!」

笑顔でさらりと恐ろしいことを言う。職員室行って戻ってくるまでとか、相当急がないと間に合うわけがない。

「どっちが早いか競争な!」

「つか、それ間に合うわけねぇし!」

問答無用で競争をけしかけられ、俺は部室までの全力疾走を余儀なくされた。


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