No title

口には出さなかったが、本気でそう思った。素人目で見ても、そう思わせるくらい胡散臭さが滲み出ている。

「ちなみに、いくらで買ったか聞いても?」

「あぁ! 1万で即決だった」

「1万!? カチューシャに1万も払ったんっすか!?」

こんなものに1万も出すなんて信じられない。

ふわふわとしたカチューシャをジッと見つめる。

触り心地は良さそうだが、とてもそんな価値があるようにはみえない。

「宮地さん、コレ、付けてみてもいいっすか?」

「なっ!? ダメだ馬鹿っ止めろっ!」

「えっ、ちょっ!? 先輩そんな引っ張ったら――っ」

ほんの冗談のつもりだった。頭にセットするより早く、宮地に腕を勢いよく掴まれて体勢が崩れる。

「あっぶね、うわっ!?」

よろけた足がベッドの淵に当たり腕を掴まれた状態のまま勢いよくベッドに倒れこんだ。その拍子に枕木で盛大に後頭部を殴打してしまい堪らず頭を抱える。

「いっ〜〜っ!」

痛みで目がチカチカした。高尾もろともベッドへダイブした宮地がガバッと跳ね起きて心配そうに覗き込んでくる。

「カチューシャは!? カチューシャは無事なのか?」

「ひっでぇ、俺の心配は?」

「てめえよりカチューシャのが大事に決まってンだろ!」

「ひっでぇ。大丈夫っすよ、カチューシャならここに……って、アレ?」

手に握っていたカチューシャを指で振って見せながら、ふと違和感に気が付いた。

倒れ込む前まで確かに二つ付いていた片耳が綺麗さっぱりなくなっている。

「……高尾……てめっ」

頭上で低い声がして、高尾は頬を引きつらせた。

「あ、や、わざとじゃないしっ! つーか宮さんがいきなり腕掴むからだろっ!?」

「なんだと? 勝手に触る方が悪いに決まってんだろうが!」

今にも殴りかかってきそうな勢いで、ベッドに再び沈められた。のしかかられて見上げた顔はゾッとするような暗い笑みを浮かべている。

確かに勝手に触ったのは悪かったかもしれない。だが、故意に壊すつもりはなかったし、ちょっと被って直ぐに返すつもりだった。

宮地が腕を引っ張らなければバランスを崩す事もなかったのだ。

そんな言い訳をしたところで壊れたものが治る事はないのだけれど。

(つーか、ちょっと枕木に当たっただけでもげるとか、どんだけ脆い作りになってんだよ)



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