No title
静かな部屋に携帯のアラームが鳴り響いた。
日向の意識がゆっくりと戻ってくる。
だが、手を伸ばしてみても届く範囲に携帯は無く手は虚しく空を掴むばかり。
けたたましいアラーム音を夢うつつに聞きながら瞼を開くと、視界いっぱいに伊月の顔がみえた。ぎょっとして僅かに身を引くと首がミシリと痛み思わず顔をしかめる。
昨夜はどうやら互いにそのままカーペットの上で炬燵を布団代わりにして眠ってしまっていたらしい。
(ゆうべ、俺は伊月と……)
何気なく伊月に視線を移す。
首筋や胸元に昨夜自分が付けた徴がくっきりと残っている。
改めて昨夜の出来事が夢ではないと実感した途端、体温がぶわっと上がった。
「う……ん……さむっ」
小さくふるりと身体を震わせて、伊月が擦り寄って来た。まだ寝ぼけているのか抱きつくように足や腕が纏わりついて来て、日向は硬直して動けなくなった。
寝息が首筋にかかり体温が伝わってくる。
昨夜の情景がフラッシュバックして蘇り思わずごくりと喉が鳴った。
心臓がバクバクと早鐘を打ち、掌には嫌な汗をかく。
ぎこちない手つきで抱きしめ返すと腕の中で伊月が「んっ」と小さく身じろぎをした。
伏せていた切れ長の瞳が日向の姿を捉えた瞬間、ギョッとしたように大きく見開かれた。
「よ、よぉ……」
「……っ、おはよ」
ぎこちなくはにかんで、目が合った瞬間さっと視線を逸らされてしまった。
伊月の白い肌が耳までほんのり桜色に染まっている。
意識してくれるのは嬉しいが、なんだかこっちまで照れてしまう。
「つか、重いから早く退けよ伊月」
「ご、ごめん」
湧き起るいろんな感情を誤魔化すように眼鏡を押し上げそういうと、伊月は慌てて抱きついていた身体を離した。
部屋に広がる微妙な空気がなんだかもどかしくて、日向はゆっくり起き上るとその辺に散乱している服を伊月に投げてよこす。
「取り敢えず、服を着ろ」
服を受け取った伊月がぽかんと口を開けて日向を見、そして改めて自分の姿に視線を移した。
「あ……すげ、いつの間にこんなに……」
「悪い。俺も夢中で全然気にしてなくて、さっき見て正直ビビった」
体中に付けられた徴がなんとも卑猥に見えて、目のやり場に困ってしまう。
「…………コレ、消えて欲しくないな……」
「んな――っ」
伊月がほぅっと溜息を洩らし、日向に刻まれた所有の徴を指でなぞる。
その表情は何処か嬉しそうで、治まっていたはずの熱が沸々と全身を包んでいく。
「おまっ、馬鹿な事言ってないでマジで早く服着ろよ!」
このままでは、勢いに任せて押し倒してしまいそうだ。
理性を総動員して抑えていないと、酷いことをしてしまいそうで日向は伊月に背を向ける。