No title
服を胸元まで捲り上げ指で散々弄った小さな粒を舌先でつつくと伊月がぅっと息を詰めた。
「〜〜っ、馬鹿日向っ! 変態っそんなもん見るな!」
「てめっ、一度ならず二度までも俺を馬鹿だと……」
「絶対電気消せって! じゃなきゃオレ帰るからなっ」
「はぁっ!?」
こんな状態でどうやって帰るというのだろうか。今にも達してしまいそうになりながら、それでもソコは譲れないと、生理的に潤んだ瞳で睨みつけてくる。
伊月が言い出したら聞かないのは百も承知だ。今ここで押し切って、次以降させてくれなくなるのは正直困る。
日向は盛大に溜息を吐くと、仕方なく部屋の明かりを豆電球に変えた。
「これでいいか?」
「……眼鏡も外せよ」
「はい!? つか、それじゃマジで何も見えないって!」
「だからっ、み、みなくていいんだよ!」
いやいや、眼鏡だけは絶対に譲れないと、間抜けな押し問答を繰り返す事数分。
互いに意見を曲げないままいがみ合っていると、部屋の外から「何騒いでるの? もう遅いから寝なさいよ」と、呑気な日向ママの声が聞こえ二人はピキッと凍りついた。
「なんでもねぇよ。どっちが客用の布団で寝るか話し合ってるだけだから」
脱兎のごとく日向の下から逃げ出して、慌ててベッドに潜り込む伊月を尻目に返事をすると「あらそう? 仲良くね」なんて声がかかり足音が遠ざかってゆく。
もちろんこの部屋にもう一組の布団なんて存在しないわけだが。
足音が完全になくなったのを確認してから、日向はドカッと伊月の隣に腰を降ろした。
「……あ〜、なんかヤル気失せちまった。……っつか、マジ萎えるわ」
頭をガシガシっと掻いて、蓑虫のように丸くなっている伊月の布団に伸し掛かる。
「おーい、伊月顔出せよ。つか、コレ俺の布団……」
「〜〜ッ、どうしよう。オレ、もう日向のお母さんの顔まともに見れない」
「考えすぎだ。別にバレてないんだから、普通にしろよ! たくっ」
今からこんなんじゃ先が思いやられる。
だが、伊月が布団から出てくる気配はなく、日向はだんだん面倒になってきた。
「あ〜、もういいわ。もう寝るか」
「――えっ!?」
溜息混じりにそう呟いて日向の身体が離れて行く。