No title
「なぁ、今日日向ん家泊まりに行ってもいいか?」
部活が終わり、みんなでしゃべりながら歩いている時に、伊月が突然言った。日向の足がぴたりと止まる。
通いなれた街並みがライトアップされ、クリスマスヴァージョンへと少しずつ変わり始めた、一一月の終わりの事だった。
伊月が思いつきで家に泊まりに来きたいと言い出す事は昔からたびたびあった。
ただの友達としてなら気軽にOKを出している所だが、今はその時と状況が違う。
数か月前、二人は互いの思いを伝えあい晴れて両想いとなった所謂恋人同士だ。
まだ手を繋ぐことすら抵抗があるというのに、いきなり家に来ると言うのは、どういう了見だろう。
同じ屋根の下で一晩過ごすという意味を伊月は理解しているのだろうか?
「急にどうした?」
「いや。最近、日向の家に遊びに行ってなかったなと思って。明日は練習午後からだし、いいだろう?」
深い意味はないと笑う伊月に、日向はがっくりと肩を落とした。
もしかしたら伊月は、自分たちが付き合っていると言う事を忘れているのかもしれない。
そんな不安すら湧き起ってくる。
「ん、どうした? ダメなのか?」
不思議そうに顔を覗き込まれて、日向はぶるぶると首を振った。
「ダメなわけねぇだろ! つか……むしろ嬉しいし……」
「え?」
「……」
「……」
思わず赤くなってしまい、それを隠すようにそっぽを向いてしまった。
二人の間に微妙な空気が流れ、意味していることにようやく気付いたらしい伊月が首からじわじわと茹で上がった蛸のように赤く染まっていく。
「あ、いやっ! 別にオレっそういう意味で言ったわけじゃ……」
そういう意味ってどういう意味だよ。と、思わずツッコミを入れてやりたくなった。
息が白くなるほど外気は冷たいと言うのに、なんだか顔の周辺がカッカするほど熱い。
今ココに木吉が居なくてよかった。彼は何も考えていないようにみえて意外と周りを見ている。
そして、空気の読めない発言をするから、厄介なのだ。