No title

「たく、怪我はないか?」
薄暗い部室棟の廊下を支えられるようにして歩きながら尋ねられ、高尾は小さくコクリと頷いた。
「あの、宮地さん……なんで?」
「あ?」
「オレ、別れて欲しいって言ったのに……なんで、来てくれたんっすか?」
「俺は同意した覚えはねぇよ」
誰も居ない部室の鍵を開け、中に入る。
ひやりとした空気に身体が竦み、宮地の言葉に驚いてハッと顔を上げた。
「お前が本気で女を好きになったっつーんなら、諦めてやってもいいけどな……、嘘が下手過ぎんだよ」
溜息交じりにそう言われ軽くオデコを弾かれる。
「いつからだ?」
「……一か月くらい前から……ッス」
宮地は何も言わなかった。てっきり、もっと早く言えよとかお前は馬鹿じゃないのかとか、罵詈雑言を浴びせられるんじゃないかと思っていたのに言葉の代わりに強い力で引き寄せられ包み込むように抱きしめられた。
「……悪かったな、気付いてやれなくて」
宮地の優しい声に、ようやく悪夢から解放されたのだと安堵感が押し寄せて膝がガクガクし始めた。宮地の腕がなければ立っていられない。
張りつめていた気持の糸が切れてしまったように、涙が溢れて止まらなくなった。
「オ、オレ、怖くて……すっげー苦しかった……!」
「ああ」
「宮地さんや、他の部員たちには迷惑掛けたくないって、ずっと思ってて……」
「もういい。わかったから」
泣きながら溜め込まれた思いを吐露する高尾の背中をゆっくりと宥めるように撫でる手が優しすぎて益々涙が止まらなくなりそうだった。
途中、鼻水つけんなよ。なんて苦笑交じりに言われたけれど、高尾を拒絶する気配はなくただ、落ち着くまでずっと背中をさすってくれていた。
「……落ち着いたか?」
「サーセン」
備え付けのパイプイスに腰掛け、高尾の涙が止まった頃合いを見計らって尋ねる。小さな子供のように縋りついて泣いてしまった事実が恥ずかしくて、顔が上げられないでいるとゆっくりと顎を持ち上げられて視線が絡む。
「あ〜ぁ……ただでさえぶっさいくなのに、顔が更に酷い事になってんぞ」
「ひ、ひっでーっ! なんっすかソレ!」
クックックと笑いながら、頬についた涙を指で拭ってくれる。その仕草がくすぐったくて文句を言うと、宮地の目が切なげに細められた。
「……ほんと、悪かった」
「もう、いいっす。宮地さんが、助けてくれたから……さっきの宮地さん、すげーカッコよかった」
手を伸ばして宮地の手に触れる。暗い深淵にいた自分を救ってくれた優しい手。
あの時、宮地が来てくれなかったらと思うとぞっとする。
「惚れ直したか?」
尋ねられてコクリと頷いた。空いている右手で頬を撫でられ仰向かされる。暫く見つめ合った後そっと目を閉じるとそれを待っていたかのように軽く触れるだけのキスが降って来た。
ちゅんちゅんと啄むようなキスがくすぐったくて、もどかしい。
少し腕に力を入れて引き寄せ、半ば強引に自分から舌を入れて深く口づけた。
「……っ、っふ…」
歯列を割り、逃げる舌を追いかけて絡ませる。熱い口内で互いの舌を絡ませ合っているとようやくその気になって来たのか深いそれへと変わっていく。
「あんま、煽んじゃねーよ馬鹿。埋めんぞ」
息継ぎの合間に囁かれ熱を孕んだ瞳に、腰がぞくっとした。
「だってオレ今、すっげーシたい気分なんっすよ」
「は? 知るかよ一人でヌいてろ馬鹿」
「えー、抱いてよ宮地さん……オレなら大丈夫だから」
自分でも驚くくらい甘さの滴るような仕草で宮地の顎を撫でる。
「そうは言ってもな……心に受けた傷はそう簡単には治るもんじゃねぇだろ」
宮地が言いたいことは痛いほどわかっている。自分を気遣ってくれているのも重々承知だ。
だけど、それなら尚更記憶を塗り替えて欲しいと思った。
「宮地さんは、シたくねーの? 本当に?」
「ヤりたくねぇわけねぇだろ馬鹿!」
ホラ、と腕を掴まれ下肢に導かれた。宮地のソレは既にズボンの上からでもわかるほどに反応してしまっている。
「けど俺は、お前の傷口に塩を塗るようなことはしたくねぇから」
「だったら! オレの為だって言うなら…………アイツらの事、忘れさせてよ」
「ッ、後でやっぱ嫌だつっても止めないからな」
「フハッ、言わねぇし」
クスクス笑いながら首に腕を回す。自然と深くなってゆく口付けに高尾は全身の力を抜いた。

ロッカーを背に向き合いながら、幾度となく舌を絡ませ口付けを交わす。
熱い唇がゆっくりと顎、首筋、胸元へと降りて来て、鎖骨の下辺りを強く吸い上げられビクビクと身体が震えた。
「んっ、は……宮地さ、痕が……」
「俺のモンだって証だ」
言いながら、身体のあちこちに吸い付き赤い痕を残していく。
「や、ぁっあ! そんなとこ、付けたら恥ずいって」
ズボンを下着ごと抜き取られ、腿を持ち上げ内側の柔らかい部分にまで徴を刻み込まれカァッと頬が熱くなった。
「見えるトコには付けねぇよ」
苦笑しながら尻の窄まりに熱い指が触れ、グッと指先を沈めて来た。
「あっ、ぁあっ」
ぞわっと全身の毛が立ちあがった。思えば、奴らに脅され始めてからと言うもの宮地とはこういう行為をしていない。
奴らに強引にこじ開けられた時には不快でしかなかった行為も、宮地がすると全く違う感覚をもたらして来るから不思議だ。
「ふ、ぅ……んんっ」
唾液で濡らした指が慎重に進んで来る感覚がもどかしくて無意識のうちに腰が揺れる。
気遣ってくれているのはわかっているが、宮地の存在を直に感じたくて仕方がない。
手を伸ばして熱く反り勃っている宮地のソレに触れた。手の中でググッと質量を増したそれを軽く擦ってやると先端から蜜がジワリと溢れて来る。
「ねぇ、挿れて……? オレ、早く宮地さんのが欲しくてたまんねーんっすよ」
「〜〜っ、あんま煽んなアホッ!」
文句を言いながら、指を引き抜かれヒクつくそこに熱い塊が押し当てられる。
身体の位置を合わせ、硬くそそり立ったモノがゆっくりと押し入って来る。
「んっ! あ……あぁっ」
熱く硬く猛ったものが内部を抉る感覚に激しく身悶えた。嫌で嫌で仕方なかった行為も受け入れる気持ちが違うだけでこんなにも感覚が違うものかと驚きを隠せない。
「はぁっ……あ、んんっどうしよう、宮地さん……ぁ、ぁあっ!」
「んだよ、やっぱ怖くなったのか?」
「ちがっ、気持ちいくて……や、ぁっ」
「…――だから、あんま煽るなっつってんだろうが!」
「――ああ……ッ!」
正直な気持ちを口にしたら、突然力の増した手が腰を掴んで大きく突き上げて来た。
激しい抽送に呼吸がままならない。のけ反る身体を抑え込まれ宮地が動くたびにロッカーがガタガタと凄い音を立てる。
それが妙に気恥ずかしくて、宮地の頭を抱くようにして必死にしがみついた。
「んんっ、ふぁ……ぁあっ、むっ……んんッ」
声がうるさかったのか、宮地の唇に塞がれた。夢中でキスに応えていると放置されていたペニスに宮地の指が絡んだ。
中を擦られるのと同じリズムで刺激を与えられ背中が戦慄く。
「あっ……、あぁぁっ! はっ……宮地さっ……もう、ダメっ。あっ、オレ……我慢、できな……あっ……」 
大きな動きで突き上げられて首を振って訴えた。もう何も考えられなくてクラクラする。身体がドロドロに溶かされてしまいそうだ。
「……もう、イきそうなのか?」
「あっ……んんっ、だめっ、ク……イっく……んんっ」
「くっ、合わせてやるよ……っ」
「あ、あ、あ……や、ぁああっ…――!」
腰を掴んで最後の追い上げをした宮地の肩にしがみついて白濁を放つ。ほぼ同時に自分の中でどくりと脈打つ迸りを感じた。
「っ、すげ……熱い……」
「悪い、歯止めが利かなかった」
ぐったりと肩に凭れる高尾の背中を優しくそっと撫でてくれる。その仕草がくすぐったくて嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
「へーきっす。すっげぇ気持ちよかった……」
「っ、あんま煽るような事言うな」
「煽ってねーし! つか、本当の事だし」
「それが煽ってるって言うんだよ馬鹿! このまま埋めんぞ!」
軽くおでこを小突かれて視界が揺れる。事後のこんなやり取りも久しぶり過ぎて、ようやく平穏が戻って来たんだと胸がいっぱいになる。
「って〜……オレは、もう一回シてもいいっすよ?」
「……バーカ。無理すんなって」
目尻に浮かんだ涙を誤魔化すように冗談めかして言ったら、羽がふわっと撫でるような優しさで滲んだ涙を拭いてくれる。
「たく、お前は一人で背負い込み過ぎなんだよ。もっと、俺を頼れバーカ!」
「サーセン」
「隠し事厳禁だからな! 今度なんかあったらシメる!」
「ッス」
「あと……」
「?」
急にモゴモゴと口籠った宮地に首を傾げる。何を言うのかと見上げるといきなり強く抱きしめられた。
「俺はお前を手放すつもりなんてねぇから。誰にも渡さねぇよ」
耳元でそうはっきりと告げられて、胸が詰まった。これ以上ない幸福感に包まれて涙腺が緩む。
「だからもう……別れるとか言うな」
「……はい」
ゆっくりと視線が絡み、二人の距離が近づいて行く。どちらかともなく目を瞑り、誓い合うようにそっと唇を重ねた。


NEXT→あとがき


[prev next]

[bkm] [表紙]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -