No title

「よぉ、よく来たな」
薄暗く湿っぽい部屋のドアを開くと中には数人の男が待っていた。
「用ってなんだよ」
相手の名前なんて一々覚えていない。同じバスケ部に所属していて直ぐに辞めてしまった奴らで、顔だけは見たことがある同級生と言う印象しかない男たちだ。
見知らぬIDから突然LINEが入ってきたのは深夜遅くになってから。
文面からして、あまり気持ちのいい呼び出しでない事くらいわかっていたが添付されていた写真が気になって、約束どうり誰にも言わずに応じてしまった。
「まぁそんなツンケンすんなって」
ニヤニヤ笑いながら茶髪の男が馴れ馴れしく肩に触れて来る。口臭から僅かにたばこの香りが漂って来て高尾は眉をひそめた。
出来ればあまりお近づきになりたくはないタイプの輩だ。
「お前さぁ、あの宮地先輩と付き合ってんの?」
ニヤニヤしながら問われ、早速来たかとちいさな溜息が洩れる。
だが、質問に答える気は毛頭ない。
「あの先輩手籠めにするとかどんな汚い手を使ったんだよ。俺らにも教えろよ」
「案外色仕掛けとか? つか、一軍の座だって監督に色目使って手に入れたんじゃねぇの?」
「あーね」
口々に勝手な事を言う男たちに反吐が出そうだ。
だが、煽りに乗ってしまえば向こうの思うツボだと自分に言い聞かせ唇をぎゅっと噛みしめる。
「まさか、ホモだったなんてな。てか、よくヤるよなぁ部室でエッチとか燃えんの?」
制服の下にオリーブグリーンのシャツを着た男がニヤニヤしながら目前に宮地との情事を映した画像を突き出してくる。
一体いつの間に撮影したのだろう。
二人きりになる時は部室のカギはいつも確認していたし、窓だってきちんと閉まっていた。人の影や、怪しい物があれば視野が広い高尾なら大抵は気付く筈なのに……。
「何が目的だよ」
「そう怖い顔すんなって、悪いようにはしねぇから」
オリーブ色のシャツを着た男が背後から高尾を抱えるようにして、高尾の両手首を掴んで背中へと捻り上げる。一人は高尾の口を塞ぎ、たばこ臭い男は高尾の足を開かせて、閉じられないように間に身体を割入れた。四肢を固定され、身動きもままならない。
「俺らにもさ、イイ思いさせてくれよ」
男はニヤニヤと卑下た笑みを浮かべながら唇が触れそうなほど顔を寄せて来た。近づくと益々たばこのにおいが鼻をついて気分が悪くなってくる。
こんな奴らに好き勝手されて堪るかと必死に逃れようともがいた、
「あんま暴れんな。動画もあるんだぜ? コレ、学校中にばらまいたらどうなると思う?」
「……クッ」
「宮地先輩ってもうすぐ受験だったよな? まぁ、こんなの出回って先生の目にでも止まったら、ウインターカップすら出れるかも怪しくなってくるよな」
男たちの言葉に、ザァッと全身の血が引いて行くのがわかった。
自分の行動次第で、宮地や、バスケ部全員に迷惑が掛かるかもしれない。
バスケ部の皆が必死に培ってきた伝統や努力が一瞬にして無になる瞬間を想像し、目の前が一気に暗くなる。
「どうすればいいか、わかるよな? 高尾クン」
もう一度画像を目前に突き付けられ、スマホのひやりとした感触が高尾の抵抗を奪った。
「オマエが余計な事しなけりゃ、悪いようにはしねーよ。俺らだって一応元部員だし? 応援してるんだぜ、ウインターカップ」
 こんな奴らに屈服するなんて苦痛以外の何物でもない。だけど、今の高尾に拒絶すると言う選択肢など残されていなかった。
どうすればいいか、わかるよな? と耳元で囁かれ高尾は唇を強く噛んだ。


「ちーっす」
良く冷えた空気に、バッシュのスキール音が鳴り響く。
外は凍えてしまいそうに寒いのに、此処は既に熱気が溢れている。
「お前ら遅せーぞ! やる気あんのか!?」
「サーセン。けどまだ20分前っすよ」
正確に言えば17分前だ。練習開始までにはまだ少しある。バッシュの紐を結びながら言えば、宮地の額に青筋が浮かび上がるのがよくわかった。
一年は、先輩よりも先に来て、練習できる準備を整えておかなくてはならない。
そう教えられて、早めに来るようにはしているものの宮地たちの方が早すぎるから仕方がない。
相棒の緑間は緑間で、おは朝がまだ終わっていないからとの理由で家から出てこない事があるから、どう頑張ってもこの時間になってしまう。
「その分、練習頑張るんでカンベンしてくださいよ」
軽くストレッチをしながら笑いかけると、宮地から”当たり前の事言ってんじゃねぇぞ”と小突かれた。
「つか、お前……口の端切れてんじゃねぇか」
「……ッ」
スッと宮地の手が伸びて来て頬に触れられそうになり、高尾の体がびくりと小さく跳ねた。触れるか触れられないかの距離で顎を引きその手を躱す。
「ちょっと、昨夜階段で滑って転んだだけっす。大したことねぇから大丈夫っすよ」
笑って誤魔化し、これ以上追及されては堪らないと宮地から距離を取る。
気を付けろよ。と、行き場を無くした手で頭を撫でられ複雑な思いが胸を締め付ける。
本当の事なんて、言えるはずが無い。
これ以上、宮地にも部員たちにも迷惑をかけてはいけないと言う思いが高尾に無理な笑顔を強要させた。


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