No title


「たく、あんま煽るような事いうんじゃねぇよ埋めんぞバカっ!」
ぱたんとドアが閉まるなり、強く抱きしめられ噛み付くような激しいキスをしてきた。舌を深く差し入れ高尾を貪りながら、制服の中に手が滑り込んで来る。
ひんやりとした手が素肌に触れてびくりと身体が小さく跳ね、高尾は清志の胸を慌てて押し返した。
「ちょ、煽ってねぇし! それに……」
「それに?」
「まだ、プレゼントとか渡してないからこういうのはちょっと……」
何よりすぐ隣の部屋には、裕也がいる。それがどうしても気になってしまう。
「プレゼント、ね……期待してねぇけど貰ってやるよ」
ベッドに腰を掛け、盛大なツンを発揮する清志に苦笑しつつ鞄を漁って包みを取り出す。
股の間に座れと促され、戸惑いながらもそっと清志に凭れた。
「ぜったい、宮地さん喜ぶと思いますよ」
そう前置きした上でそっと綺麗にラッピングされたそれを手渡した。
何だろうな、と目の前で包みを解かれるこの瞬間が何気に緊張する。
「――え、――っ」
「えっ?」
中身を見た途端、清志の動きがぴたりと止まった。まさか、裕也の情報が間違っていて既に持っていたと言うオチだろうか?
だとしたら、この間のアレは無駄骨だったと言う事になってしまう。
数秒の沈黙は高尾を不安にさせるには十分すぎる時間だ。
「え、コレマジ? えっ、ぇえっおまっ、なんっ」
「……、きっと宮地さんはみゆみゆのグッズとかがいいんだろうなって思ったんでソレにしたんですが」
裕也の情報では、サイン入りの限定版(数量限定握手券付き)が喉から手が出る程欲しがっているが、ネット販売が不可な上に発売日にバイトが入っていて行けないと悶絶していた。と言う事だったのだが……。
もしかしたら違う友人を介して手に入れていたのかもしれない。
「宮地さん?」
「マジかよ! 信じらんねぇ。うわー! やっべ! なんだよオマエ最高だよマジで!」
不安になて見上げると、今まで見たことも無いくらいに破顔した宮地の顔があってぐしゃぐしゃと髪を掻き乱された。
「お前のハイスペックさ正直ナメてたわ。マジ、ありがとな!」
「……ッ大したことじゃねぇし」
無邪気に喜ぶ顔が見たかった筈なのに、その顔を見ると心が痛む。
「じ、じゃぁプレゼント渡したし、オレそろそろ帰ろうかな〜」
「待てよ」 
居た堪れなくなって立ち上がろうとした高尾の腕を宮地が掴んだ。そのまま顎を持ち上げられ首が変な風に曲がって痛い。
「今夜、泊まって行けよ。……つか、帰さねぇ」
「!」
言うが早いか体勢を入れ替えられベッドに押し倒された。
「ん……っ」
清志の食いつくような激しいキスに呼吸がままならない。苦しくて唇を離そうと首を振っても追いかけてきて、また、深く重なる。
高尾の舌を強く吸い、自分の口へと誘い込む。清志の熱い口内で互いの舌を絡み合わせていると、自分が積極的にキスを仕掛けているような気持になり、腰がぞくっとした。
「ぁあっ」
キスに夢中になっていると、潜り込んできた手のひらに胸の小さな突起を摘ままれ、高尾はびくりと身体を震わせた。人差し指で押したり潰したり円を描いたりして弄ばれ、鼻から抜けるような声が洩れそうになり慌てて清志の腕を掴んだ。
「宮地さ、ぁっダメ、隣に宮地さんが……」
「あ? 裕也がどうしたって? どうせもうバレてんだし、今更じゃねぇか」
「そう、だけど……でもっ」
裕也がいると思うと、気が気じゃない。
構わず続けようとした清志だったが、逃げ腰の高尾に何か思う事があったのか、ぴたりとその動きを止めた。
「……お前、裕也と何かあっただろ?」
スッと目が眇められ色素のやや薄い双眸に見つめられ息が詰まる。
「は? あはは、何言ってんっすか宮地さんっ、冗談キツイし」
笑って誤魔化そうとしたけれど、乾いた笑いしか出てこなかった。
「……」
何かを察した宮地がベッドを降りて部屋から出て行こうとする気配を感じ慌てて高尾も跳ね起きた。
「み、みみ宮地さんっ、何処に行くんっすか!?」
「何処って、確かめに行くんだよ」
絶対零度を思わせる冷たい視線に全身の血の気が引いて行く。
ベッドから転がり落ちるようにして清志の後を追おうとしたが一歩遅かった。部屋のドアが開き、薄暗かった部屋に廊下の明かりが差し込んで来る。
すると、今まさにドアをノックしようとした体勢の裕也が入口の前に立っていて、最悪な事態が頭を過る。
「お前、コイツになにをした?」
「かはっ、いきなり何? さぞかしイチャイチャしてんのかと思ったら……」
「いいから答えろ! 焼くぞ!」
ちらり、と清志の肩越しに裕也と目があい、高尾は凍り付いた。
いっそココから逃げ出してしまいたかった。だが、一つしかない入口は宮地兄弟が塞いでいるために出ることは出来ない。
現実を直視する勇気が無くて、高尾は堪らずぎゅっと目を瞑った。
「何をしたもなにも、高尾がいきなり兄キの欲しがってるモンが何だ? って聞いてきたから教えてやっただけだけど?」
「……それだけかよ」
清志の地を這うような低い声がする。あぁもうダメだ。真実を知ればきっと宮地は自分を見限るに違いない。
今までの思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、この関係も終わってしまうのかと思うと胸が苦しくなって目じりに涙が滲んだ。
「あー、教えてやる代わりにマジバの新商品奢らせたわ」
――えっ?
想像していた言葉と違う展開に驚いて顔を上げた。
「つか、なんだよ兄キ。もしかして疑ってる訳? 俺ホモじゃねぇし、つか! こんなガサツで五月蠅い野郎に勃たねぇっつーの」
軽く笑い飛ばされて、清志の殺気立った気配がフッと消えたような気がした。
「んだよ、マジバって……」
何処かホッとしたように肩の力を抜いた清志の後ろで、裕也が小さく目で合図するのを高尾は見逃さなかった。
「そうそう、母さんから今日は急な残業で少し遅くなるからってさっきLINE入ってたから一応、教えといてやる。あと、俺出て来るから」
存分に二人で楽しめよ。なんて言い残して裕也は階段を下りて行ってしまう。
「たくっ、余計な気遣うなっつーの! 馬鹿弟が」
ぶつぶつ文句を言いつつ、ゆっくりと扉が閉まる。
「あ、あの……宮地さん?」
「たく、お前も紛らわしい態度取ってんじゃねぇよっ! 轢くぞ」
はぁ、と盛大な溜息を吐きながら少し強めに頭を叩かれた。
「サーセン」
「……つか、萎えちまったな。腹も減ったし……」
さっきまでの殺気はどこへやら。すっかり毒気を抜かれた清志が高尾に凭れ掛かって来る。
「あ! オレがなんか作ります」
「おー、じゃぁカキフライな」
「ブフォッ、難易度高けぇ。つか、宮地さん家ってカキなんて常備してるんっすか」
「どうかな。お袋が買ってきそうな気もするけど、面倒だし、ピザでも頼もうぜ」
「せっかくの誕生日なのに……」
宅配ピザだけなんて味気ない。かといって人の家で豪華な料理を作る自信なんてどこにもないのだけれど。
「誕生日はお前が全身で祝ってくれるんだろ?」
「ぶはッ! 宮地さん、ちょっと見ないうちにエロ親父っぽくなりましたね」
「あ? なんか言ったか?」
ギロリと睨まれて肩を竦め、慌てて首を振った。
ふっと、視線が合ってどちらかともなく口づける。次第に深くなってゆく口づけに、高尾は全身の力を抜いた。


[prev next]

[bkm] [表紙]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -