No title

誕生日当日。部長でもある裕也の粋な計らいにより夕方の練習を早めに切り上げた高尾は、珍しく緊張した面持ちで宮地家の前に来ていた。
当初は何処か外で会う予定だったのだが、思った以上にプレゼント代が高く付いてしまったので無理を言って予定を変更してもらったのだ。
「よぉ、早かったな」
インターホンを押して数秒もしないうちにドアが開き、益々大人びた宮地が顔を出した。
「宮地さんが練習早めに切り上げてくれたんで」
「ふぅん……アイツが」
余計な事しやがって。と、呟きつつ何処か嬉しそうな表情をする宮地に思わず顔が綻ぶ。
「そういや、裕也は? 一緒じゃねぇの」
「宮地さんなら、ちょっと寄っていく所があるって言ってたけど。オレらに気い遣ってくれたんじゃないっすか?」
後ろめたい事があるので、裕也の話題は心臓に悪い。出来るだけ自然に振る舞おうとわざと冗談めかして言ってやると、宮地は気のない返事をした。
「じゃ、せっかくあのアホが気を遣ってくれたんなら楽しまないとな」
「ぉわっ、ちょっ宮地さんっ」
腕が腰に伸びて来てそっと抱きしめられ心臓が大きく跳ねる。鼻腔を擽る柔軟剤の香りにどきりとさせられ、同時に先日の一件が脳裏を過った。
同じ香りに包まれて、罪悪感で胸が痛い。慌てて身体を離そうとしたけれど変に拒否れば怪しまれてしまうかもしれないと思い、そろりと息を吐いた。
「こ、ここっ玄関っすよ!? つか、ご両親は?」
「親父もお袋も仕事だよ。お袋はもうすぐ帰ってくるハズだけど」
「か、帰って来てこんなトコ見られたらやばいんじゃ」
「俺がんなヘマすっかよ。バーカ! 車の音でわかるだろ」
ククッと喉で笑いながら軽くデコピンされて堪らず額を押さえる。
「って〜〜」
「最近、すれ違ってばっかだったろ? お前が不足してんだよ。少しくらい充電させろ」
「ブフォッ! 宮地さんがデレた! やっべ、超貴重〜」
言った途端「余計な事言うと轢くぞ!」と、すかさず頭を叩かれた。けれど全然痛くない。
「暴力反対っ」
「うっせぇよ馬鹿!」
言いながらも全然離してくれない。髪やうなじの匂いを嗅ぐように鼻先を近づけられ鼓動が一際大きく跳ね上がる。
どうしよう。宮地を裏切ってしまったと言う罪悪感がしこりのようにずっと胸の奥に支えているけれど、普段は滅多に見せることのない彼の甘えるような仕草は凄く嬉しい。
複雑な胸の内を隠すように、高尾は笑いながらおずおずと宮地の背に腕を回した。
額に羽のようなキスが降って来てドキドキしながら顔を上げる。ほんの数週間会わなかっただけなのに、宮地は益々カッコよさが増したようだ。滲み出る色気に充てられて胸が苦しい。
「――――」
玄関前が甘い空気で満たされてゆくのを感じつつ、目を閉じて引き合うようにそっと唇を寄せ合った。
「ただいまー……って……」
突然開いたドアに驚いて、あと数ミリでキス。と、言う距離を互いに頭を引いて離れた。
「は〜、帰ってきた途端にホモップルのキスシーン遭遇とかマジねぇわ……ヤるなら部屋でヤれば?」
「うるせー! 余計なお世話だ焼くぞ!」
今一番出来れば会いたくなかった人物の登場は正直言って心臓に悪い。
邪魔が入り、不機嫌MAXの宮地も怖いが秘密を共有した相手と鉢合わせるなんてバツが悪すぎる。
「高尾、お前も流されてんじゃねぇよ。俺の前でイチャイチャすんな! チンコ潰すぞ」
「はひっ」
突然話を振られて変な声が出た。色々とやましい事があり過ぎて裕也の目がまともに見れない。
「……お前、彼女いない童貞だからってコイツに八つ当たりすんなよ。残念な奴だな」
「ハッ、ドルヲタな上にガチな兄キのほうがよっぽど残念だろ。つか、俺は清純で可愛い子が好きなんだよバーカ!」
突然始まった低レベルな口喧嘩に、心のどこかでホッとしつつ清志の服の裾をそっと引いた。
「取り敢えず、宮地さんの部屋行きましょうよ。つか、早く二人きりになりてぇし……」
これ以上二人を一緒にしていたら、裕也がいつ口を滑らせるかわからない。せっかくの誕生日に清志を幻滅させるような事だけはしたくない。
そんな一心で言った言葉に、その場にいた二人が同時に息を呑んだ。
「……ち、しゃぇねぇな」
頭を掻き、視線を逸らしながら行くぞと腕を引く清志の耳が心なしか赤く染まっているような気がする。
自分の部屋へ戻る裕也の頬も何故かほんのり赤く染まっているような感じがしたが、敢えて追及はしなかった。


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