No title

「ねー、宮地さん。お兄さんの今一番欲しいモノって何か知りません?」
部活も終わり、部室で最後の点検をしていると突然高尾がそう切り出して来た。
相棒の緑間は今日の占いの結果が芳しくないとかで、一緒にはいない。
何か言いたげだとは思っていたがいきなりなんだ?
首を傾げつつ、ふとカレンダーに目をやればあと数日で兄でもある宮地清志の誕生日が迫っている。
(あぁ、なるほどな)
裕也は妙に納得し短く息を吐いた。清志がまだ在学中の頃から高尾と付き合っているのは知っていた。
恋人の誕生日を祝ってやろうと言う気持ちはとてもいいことだと思う。
だが、当日リア充を目の当たりにしなければならないのは癪だ。
普段、何をやっても勝てない兄のウザいノロケ(本人は無意識だが)を見るのも鬱陶しい。
ちらりと視線を移せば、高尾が期待と不安の入り混じった表情でジッとこちらを見上げている。
「知ってるけど、タダじゃ教えられねぇな」
「げー、後輩から金巻き上げるんっすか」
サイテー。と、ふざけた口調で言うので思いっきり拳骨で殴ってやった。
「いってー。暴力反対!」
「うっせーな! 教えねぇぞ?」
「うっ、すんません教えて下さい! つか、マジわかんなくて……木村先輩に聞いてもみゆみゆのグッズでもやっとけば喜ぶだろしか言わねーし……ぶっちゃけグッズ調べたけど沢山あり過ぎてわけがわからなくて」
「んなもん、セーターでも、マフラーでも無難なヤツ選べばいいじゃねぇか」
「それじゃ芸がないっつーか。やっぱ、デキる恋人演出してぇし」
「……」
出来る恋人ってなんだよ! 普通でいいだろ! と、思わずツッコミを入れてやりたくなった。
だが、本人は至って真面目にそう思っているようで、そこまで考えて貰える兄がほんの少し羨ましくもあり、なんとなく悔しい気持ちにさせられる。
「オレに出来る事なら何でもするし!」
「なんでも?」
高尾の言葉に裕也の眉がピクリと跳ねた。
咄嗟に何か嫌な予感がしたのか高尾が、うっとたじろぐ。
「なんでも、ねぇ……じゃぁ俺のを咥えろよ」
「!?」
「いつも兄貴のは喜んで咥えてんだろ? じゃぁ出来るよな?」
「は? いやいやいやっ! 無理だし!」
「無理? じゃぁ兄貴が一番欲しいもん知りたくないんだな?」
そういうと言葉に詰まる。
自分はホモではない(と思う)。だが、幾度か遭遇した兄とキスをしている時の高尾の表情は中々グッとくるものがあった。
自分の知らない表情を見てみたいと言う気持ちや、兄を困らせてやりたいと言うちょっとした悪戯心からくる発言だった。
じりじりと壁に追いつめ逃げ場を失った高尾の顎を掬って持ち上げる。
いつもふてぶてしい態度の後輩が焦って視線を泳がせる様は見ていて面白いし嗜虐心を煽られる。
「どうすんだ?」
今にも触れそうな距離でもう一度問いかけると、高尾がクッと息を詰めた。
そして、暫く逡巡したのち、意を決したのか顔を上げた。
「や、やればいいんだろっ」
「言葉遣いがなってねぇ。やらせて下さい。だろ?」
「……ヤラセテ下さい」
物凄く屈辱的な表情で言われ思わず吹き出してしまいそうになる。
「よっしゃ、じゃぁよろしく頼むわ」
兄貴の為とはいえ、よくやるよと心の中で思いつつ、高尾の頭をポンポンと軽く叩いた。


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