No title

「お疲れっした!」
体育館に、威勢のいい挨拶が響きみんな一斉に帰り支度を始める。
「先行っててくれ。俺、もう少しやってくから」
部活に私情を持ち込んじゃだめだ。頭ではわかっているのに、憂鬱な気分がどうしても拭えなくて結局皆に迷惑をかけてしまった。
欝々とした気分をなんとか払拭したくて、俺は一人倉庫へと向かう。
このままじゃだめだ……切り替えないと。
片したばかりのボールに手を掛けた瞬間、背後に人の気配を感じた。
「伊月」
「……」
振り返らなくても気配でわかる。今は話したくなくて無視していると、突然肩を掴まれた。
「あのな、何か勘違いしてるみたいだから、順を追って話をしてやる」
「俺は話す事なんてなにも」
「オレがあるんだよダアホッ!」
いいから来い! と、半ば強引に腕を引かれ体育館から引きずり出された。
下手な言訳なんて聞きたくないのに、強い力で引っ張るからそれを振り払う事も出来ない。
なんだよ、勘違いって。俺が何を勘違いしてるって?
戸惑いながらついて行くと部室の前で足が止まる。
開けろと顎で促され、そっとドアを開いた。その瞬間。
「伊月(先輩)、誕生日おめでとう(ございます)!!!!」
「!?!?」
パーンと言うけたたましい破裂音と共に、部屋の中から大量の紙吹雪が飛んでくる。
一体何が起こったのか状況が読めない俺の目の前には、カントクを含んだほぼ全員が集まっている。
「今日お前、誕生日だろ?」
「みんなでお祝いしようって日向君が」
照れくさそうに頭を掻く日向に代わって、カントクがそう説明してくれる。
皆に手を引かれるまま進んだ先には、大きなコーヒーゼリーが豪華に飾りを付けて鎮座していた。
「え、これって……俺の為に?」
「そうそう! コレ、火神と水戸部が作ったんだぜ」
えっへんと、コガが嬉しそうに話し「なんでコガが偉そうにしてるんだよ」と、何処からともなく笑いが起きる。
「一週間くらい前だったかな。日向がサプライズしたいから協力しろって言いだして……」
ようやく状況がわかって来た俺に、木吉がそう説明してくれる。
「すまんな、伊月。日向取ったみたいに思ってたかもしれないけど、それ、誤解だからな」
木吉が眉を下げながら、苦笑する。
「そう言う事だ。 わかったか、ダアホッ!」
「っ痛」
バシッと頭を叩かれて、後頭部がジンジンした。
「だったら最初から説明してくれたら良かったのに」
「それじゃサプライズになんねぇだろうが!」
「それもそうか……って、言う事はもしかして黒子も知ってたのか?」
「はい。でも、僕が知ったのは今朝でしたが」
すみません。と、たいして悪びれた風でも無く頭を下げられ、気が抜けて膝が崩れ落ちそうになったのを日向が支えてくれる。
「ホラ、伊月」
何処からともなくスプーンを手渡され、躊躇いながら綺麗に飾り付けされたコーヒーゼリーを掬った。
鼻腔を擽るコーヒー独特の香り、プルプルとした弾力。どれをとっても美味しそうだ。
口に含むと、ほろ苦さが口中に広がり生クリームの甘さと実にマッチしている。
こんなに美味しいゼリーはいままで食べたことがない。
「美味い、コレ本当に美味しいよ」
俺がそういうと、水戸部がホッとしたような安堵の表情を浮かべた。


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