No title

きっかけと言われてもな……。気合いを入れたのはいいけれど、日向は俺の事を避けてるっぽいから、まずはそれを何とかしないと。
朝食に出された味噌汁を飲みながら、どうしたものかと考える。昨夜もずっと考えてみたものの良い案が浮かばなくて、出て来るのは溜息ばかり。
あまりにもため息が多いから、昨夜は姉さんに幸せが逃げるぞと窘められてしまった。
そんな中、朝の情報番組を何気なーく眺めているとおは朝占いが目に飛び込んできた。
射手座は12位! 好きな人との関係が拗れてしまうかも。正直な気持ちを口に出すようにすると吉――。
あまりにもタイムリーな内容過ぎて、思わず持っていた味噌汁を落としてしまいそうになった。
俺は別におは朝信者ではないけれど、こんな日は緑間みたいにアイテムに頼ってみたくなる。
これ以上拗れてしまうのはごめんだ。
「あらら、誕生日なのに、ついて無いね」
占いを見ながら姉さんがそうポツリと呟く。
「俊、今日誕生日でしょう? ケーキ買ってくるから。夜は早く帰って来ないと誕生日だけどぶっとばーすでー」
「母さん上手い! そっか、お兄ちゃん誕生日か〜オメデトウ! 誕生日用のハッピ出すでー」
今日も我が家は通常運転だ。そんな家族がくすぐったく思える。
誕生日を楽しみにするような年齢でもないけれど、特別な日にまで日向とぎくしゃくするのはやっぱり嫌だ。
早く、何とかしないと。
「俊、どうかした? 最近、元気ないみたい」
日向君と喧嘩でもしたの? と、姉さんに訊ねられてぎくりと身体が強張った。
俺たちの関係に気付いて居るとは思えないけれど、根掘り葉掘り聞かれても困る。
「え? 別にどうもしてないよ。じゃぁ俺、学校行くから」
余計な詮索をされないうちに、食事もそこそこに鞄を掴んで家を飛び出した。


日向に会ったらどんな風に話を切り出そう……。
具体的な事はまだ何も決めていない。けど、会えばきっとなんとか――。
そう思っていたんだけれど、今日は何時にも増して日向は忙しいらしい。
常に誰かと一緒に居て、慌ただしく動いている。
相手は木吉だったり、カントクとだったり、水戸部達とだったりで取り付く島もない。
「――はぁ」
「大丈夫ですか?」
挨拶すら出来ないまま放課後になり、憂鬱な気分で着替えをしていると、突然背後から声を掛けられた。
「ぅおっ!? 黒子、驚かすなって」
「すみません、普通に声を掛けたつもりだったんですが……その様子だと、仲直りはまだみたいですね」
「ぅ……」
ズバリ言われて言葉に詰まる。
「仕方ないだろ、話すきっかけすらないんだから。なんでか今日は特に忙しそうなんだよ」
黒子に言ったって仕方のない事だけど、思わず愚痴ってしまった。
「忙しい? あぁ、そうか……」
妙に納得した風の黒子の態度が妙に引っかかる。
「黒子、何か知ってるのか?」
「いえ、僕は――」
黒子が口を開きかけたその時。いきなりロッカールームのドアが開いて日向が顔を覗かせた。
俺の姿を認識して目を丸くする。
「あ、やっべ伊月。居たのか……」
その呟きのような言葉にカチンときた。
俺に会うのがそんなに嫌だったのかよ。
話しかけるタイミングが無かったんじゃなくて、敢えて俺を避けていたんだと理解した瞬間、今まで澱のように溜まっていた嫌な感情がふつふつと湧き上がってくるのがわかった。
「……居て悪かったな」
「いや、別に悪いとは言ってない」
「俺の顔見た瞬間、やっべって言っただろ」
「それは――ッ」
グッ、と言葉に詰まる。
その間にさらにイライラさせられて、思わず唇を噛んだ。
言いたいことは多々あるけれど、そのどれもが言葉にならない。
「俺に飽きたんならさっさと言ってくれればよかったのに」
「はぁ? 何言って……」
「顔も見たくない程嫌われてたなんて知らなかった」
「おい、そうじゃねぇって」
「何が違うんだ? 人の事散々避けてたクセに。結局、俺との関係なんて身体だけだったんだろ?」
こんなことを言ったって自分が惨めになるだけだ。
わかっているのに止められない。
「身体だけって、お前マジでどうしたんだよ」
呆れているような口調と表情に、さらにイライラが募った。
日向の背後には、後から来た部員たちが何事かと集まり始めている。
いつまでも入口を塞いでいるわけにはいかない。
「早く中に入れよ。後ろ詰まってるだろ」
「ん、ぉお……悪い」
これ以上俺がこの場に居ても、周囲を不快にさせるだけだ。
同じ空間に居るのが苦しくて、居た堪れなくて脇をすり抜けて外に出た。
日向が何か叫んでいたような気がしたけど、聞きたくもない。
(俺って結局日向のなんだったんだろうな)
胸が苦しくて痛い。
この一週間悩んでいたのが馬鹿らしくなってきて、虚しい笑いが込み上げてきた。
日向との関係も、今日で終わり。
顔もみたくない程嫌われて居るのに付き合う程、俺は人間出来ていない。
なんなんだよ今日は……最悪の誕生日じゃないか。
空は俺の気持ちを嘲笑うかのような快晴。少しずつ冷たくなってきた風が頬を撫で、頭に上っていた血がスッと冷えていくような感覚に思わず深い溜息が洩れた。
ほんと、今日は最悪な日だ――。


[prev next]

[bkm] [表紙]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -