No title
そして文化祭当日、体育館の中は超満員とまではいかないけれど、結構な見物客が入っていた。
オレ達の他にも、漫才をやるやつがいたり、ダンスを披露する奴がいたりで結構な盛り上がりを見せている。
「なぁ、やっぱ変じゃないか?」
鏡に映った自分を見ていると、とてつもない不安感に襲われる。
肩まである黒いサラサラヘアに赤いカチューシャがよく映えて、可愛らしい雰囲気を醸し出してはいるが、所詮男だ。
女性らしいしなやかさや、柔らかさはどう頑張っても出せない。
自分の顔に塗りたくられた化粧がなんとも気持ち悪い。
「ぜんぜん変じゃないっす! 可愛いっすよ先輩! 堂々と行きましょう」
「男に可愛いと言われてもなぁ」
悪い女王の格好をした火神に励まされ、まぁ、コイツよりマシかと思わず失笑が洩れた。
「火神〜、がに股は止めとけよ。一応女王様なんだから」
「うっす!」
なんか、大丈夫なような気がしてきた。演じるのは全員男だし、何より火神が『世界で一番美しいのはだあれ』って言ってる時点で笑える。
「ジャージ着て練習してても面白いと思ったけど、衣装着るとマジ似合わねぇな。火神のやつ」
「まぁ、魔女の姿は様になってるけどね〜」
本番直前だと言うのに、和気藹々としたこの雰囲気。
火神が鏡に願い事!!
キタコレっ!
「伊月ウザイ! それと、もうすぐ本番だからそのネタ帳没収!」
「ぁあっ」
ひょいと取り上げられたネタ帳は、日向の手からカントクの手に渡ってしまった。
「本番終わったら返してあげる」
にっこりと笑うカントクに背中を押され、いよいよオレ達の出番がやって来た。
「じゃぁ、頑張って来いよ伊月!」
「うん、ここまで来たらやるしかないしな」
日向は後半しか出ないから、出番までは裏方の仕事だ。
お互いに拳を合わせて、ゆっくりとステージへと向かった。