No title
あぁ、自己嫌悪だ。
目が覚めた時には二人の姿は何処にもなく、脱がされた制服も何事もなかったかのように綺麗に整えられていた。
一瞬、先程の事は夢だったのだろうか? と、都合のいい考えが頭を過ったりもしたが口の中に残る独特の苦みや、下肢の鈍い痛みが夢ではないことを物語っていて、頭を抱えてしまいたくなる。
まさか、誰が来るかもわからない保健室で三人で……なんて……。
今、思い出しても恥ずかしいアレやコレが脳裏に浮かび、叫び出してしまいたい衝動に駆られる。
(何やってんだろなオレ……でも、ちょっと気持ちよかったな……)
咥えながら視界に映った裕也の顔は、ギラギラと欲に満ちていてなんだか凄そうだった。
あの凶器のようなもので突き上げられたら自分はどんな風になるんだろう?
口の中に残る感触をつい思い出してしまい、フルフルと首を振る。
「……なに一人で百面相やってんだよ、オマエ」
「!」
突然、声を掛けられて飛び上がらんほど驚いた。咄嗟に声のする方へと視線を向ければ、入口に裕也が立っていて心臓が止まりそうになった。
「み、宮地さんこそ何やってんっすか」
「お前が急にぶっ倒れるからだろうが! ……アニキからの伝言『熱があんなら最初から言えよ、轢くぞ』だと」
「ブハッ、なんっすかそれ。それを言うためにわざわざ戻って来たんっすか?」
「まさか……」
ゆっくりと近づいてくる裕也の気配に高尾はつい、身構えてしまう。
「高尾お前さ、マジで俺のモンになれよ。つか、ならなかったら速攻で犯す」
「ふはっ、何言って……オレには宮地さんがいるからそんな事言われたって無理だし……」
つい先ほど、お仕置きと称してお互い醜態を晒したばかりなのに。
「お前がアニキと付き合ってんのも、アニキがお前に執着してんのもよーくわかった。だから、俺は全力でアニキからお前を奪う事に決めた」
「は……」
裕也は何を言っているのかと、高尾の笑顔が凍り付く。
冗談にしてはキツすぎて、流石に笑えない。だが、本人は至って真面目なようで鋭い眼光に真っ直ぐ見つめられて息が詰まる。
「俺、今度こそアニキには負けねぇから。幸い、来年はアニキ卒業してここから居なくなっちまうしな」
「わ、ぷっ」
頭を乱暴にくしゃくしゃと掻きまわされ、力づくでベッドに寝かしつけられる。
「そんだけ言っておこうと思って」
「あ、あのっオレは……」
なんだか大変な事を宣言されてしまったような気がして、何か言わなければともう一度跳ね起きた。
だが、裕也は聞く耳など持っていないようで、ヒラヒラと手を振りさっさと保健室を出て行ってしまう。
(なんなんだよ一体……つか、マジでか?)
何かのドッキリか何かだろうか? それとも本気で言っているのか?
奪うってどうやって? まさかさっきみたいな事を――。
しばらくグルグルと考えてみたけれど、答えなんて見つかるはずも無い。
だんだんと、頭が痛くなってきて三度ベッドへと沈む。
裕也がどんなに迫って来ても自分は宮地が好き、なのだ。
その気持ちが揺らぐ事なんて……。
でも、先程みたいな展開になってしまったら?
(何、考えてんだよオレ!)
めくるめくふしだらな世界が脳裏を掠め邪念を振り払うように布団を目深に被った。
「はぁ……寝よ」
きっと、熱があって今は正常な判断が出来なくなっているんだ。もう一度眠って元気になればきっと――。
無理やりそう自分に言い聞かせ、高尾はぎゅっと目を瞑った。
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