No title
「大人しく寝ているのだよ」
”37.5℃と表示された体温計を見て、相棒である緑間が小さく息を吐いた。
「わかってるって。つか、ごめんな真ちゃん」
熱を出すなんてどの位ぶりだろうか? バスケを始めてからと言うもの体調を崩すことなんて滅多になくなったのに。
「フン。悪いと思っているならさっさと治せ。馬鹿め! 大方遅くまでゲームでもしていたのだろう?」
「へいへい。わかった、わかった。気を付けるって……つかさー、もうすぐ次の授業始っちまうぞ? 俺の事はいいから行けよ真ちゃん」
「む?」
時計を確認すれば始業の合図まであと数刻と迫っている。緑間はまだ何か言いたそうにしていたが、口を噤んで保健室から出て行ってしまう。
「真ちゃんって、なんだかんだで俺の事好きだよなー」
無機質な天井を眺めながらふとそんな事を思う。つい、可笑しくなってクツクツ笑っていると保健室の先生に静かにしなさいと怒られてしまった。
あぁ、ついてない。このまま熱が下がらなかったら、部活に行けなくなってしまう。
ひやりとした枕に顔を埋め深いため息を一つ。
宮地は今、何をしているだろう?
ふと、そんな事を考える。
周囲はシンと静まり返り、時折運動場の方から掛け声のようなものが聞こえて来るから恐らく今は授業中に違いない。
今日は確か、体育があるから面倒だとか言っていたような気がするから、もしかしたら今外で走っているのは宮地かもしれない。
カーテンを開けて覗いてみようか?
そんな考えが頭を過ったけれど、身体を起こすのも怠く感じてベッドに全体重を預けた。
早く熱を下げないと、本当に部活に行けなくなってしまう。一応付き合っては居るけれど、卒業後はどうなるかわからないから共有できる時間は少しでも一緒に居たい。
熱を出したなんて聞いたら彼はどうするだろう?
心配して来てくれる? それとも、夜更かしばっかしてるからだとキレる?
べしっと音がしそうなほどの強さでデコピンされる自分の姿が頭に浮かんで、思わず失笑が洩れた。
「宮地にサンに会いたいなぁ……」
熱に浮かされたように呟いて、そっと目を閉じる。
一人になると、心細くなってしまうから困る。
少し休めばきっと良くなるはずだ。
きっと――。