No title
「ついに来たのか! 王子と白雪姫の衣装!」
「そうよ! ほら見て!」
バッと盛大に広げられた服は、幼い頃ビデオでよく見ていた白雪姫のイメージを忠実に再現していた。
鮮やかなを基調とした上半身に白い大きな襟が取り付けられ、ふんわりとした提灯袖にアクセントとして赤のラインが入れられている。
腰の辺りから広がるクリーム色のスカートもふんわりと仕立て上げられ、何処からどうみても白雪姫そのものだった。
「すげぇ、昔ビデオで見たあの衣装にそっくりじゃね?」
「マジでクオリティたけぇ! 流石洋裁部!!」
わらわらと衣装に集まったメンバーたちは口々に感想を言い合い、そして一斉に俺の方を振り向いた。
「な、なんだよ。みんな……」
「せっかくだしさぁ、着てみろよ伊月〜」
小金井が衣装を持ってニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
「いや、ほらっ汚れるといけないから本番当日でいいじゃないか」
「ダメよ、伊月くん。ちゃんと本番前に試着してみないと、何処かほつれてたら困るでしょう?」
「でも……今じゃなくても……」
出来れば、ぶっつけ本番で着用したい!
「往生際が悪いぞ。伊月も諦めろ」
日向にまでそう言われたら従うしかない。
憂鬱だ。ものすごく……。
「はい、コレ。みんなの見てる前で着替えるのは恥ずかしいだろうから、着替えは用具室の奥でするといいわ」
と、カントクはにっこり。
有無を言わせないオーラを感じ取って、オレは衣装を受け取ると深い溜息を吐いた。
「絶対似合わないと思うから、せめて笑わないでくれよ」
「笑わないから! 早く着替えて。ほら、日向くんも!」
「あ、あぁ……」
グイグイと背を押され、オレ達は体育館の地下にある用具入れに押し込められた。
「一回袖を通せば、後は本番で使うだけだよな」
「当たり前だっ! こんな恥ずかしい服、何度も着れるかっつーの!」
「木吉は喜んで着てるけどな。馬の着ぐるみ」
「アイツはいいんだよ。変人だから!」
「ハハッ、そっか」
なんて、会話を交わしながら互いに背を向けて衣装に着替える。
フリフリしたレースのスカートなんて一生着る事ないと思ってたのに。
着やすいようにとワンピース風に仕立てられているから、着替え自体は楽だけれど、足元の違和感が半端ない。
当日はこの衣装に肩まである漆黒のウィッグを被り、頭に大きな赤いリボンをあしらえたカチューシャをつければ完成だ。カントク曰く、本番はバッチリ可愛くメイクしてあげるからね☆と、あらかじめ言われている。
実は、衣装より何より化粧が一番嫌だったりするんだが。
「伊月。もう着替えたか?」
「あぁ、一応。思ったよりも簡単だった。……日向は?」
「俺はあと変な飾りだけ。せーので見せ合うか」
後ろでゴソゴソと動く気配を感じ、ごくりと息を呑んだ。
身体にいくつも心臓があるみたいにドキドキと早鐘を打ち始める。