No title


(日向SIDE)
失敗した。伊月の誕生日、一番最初に祝ってやりたいと思ったのは間違いねぇ。
雰囲気が良ければその先も……なんて、淡い期待を持って無かったつったらウソになる。
だけど実際、家には伊月の家族が居るわけだし、誕生日一発目から伊月に負担掛けるのは良くねぇよなとも考えたりするわけで。
別にどうしてもヤりてぇとか思ってたわけじゃねぇのに、俺がさっき言った言葉を意識しているのか、時計の針が12時に近くなるにつれ伊月の口数が面白いように減っていく。
つか、意識してくれんのは嬉しいけど、そこまで緊張されたらマジでやりづれぇ。
微妙な空気は何とも居心地が悪くて落ち着かない。
「……なんつーか、静かだな」
「あ。そ、そうだな……ごめん、音楽でも付けようか」
「んな夜更けに音鳴らしたら近所迷惑だろダアホッ!」
「そっか、そーだよな……」
「……」
「……」
さっきからずっとこの調子だ。
「なぁ、伊月。変な事言ったけど嫌なら嫌って言えよ。別に無理にとは……」
「嫌じゃないよ」
「っ」
「オレ、日向にだったら何されても……いい」
真っ直ぐに俺を見つめながらはっきりとそう告げられて、どきりとした。
もしかして、覚悟が足りねぇのは俺の方、か?
ゴクリと喉が鳴り、俺らの間に鎮座していたローテーブルの位置をずらす。
そっと触れるだけの軽いキスをすると、伊月の腕が俺の首に巻き付いてきて引き寄せられるように腰がわずかに浮いた。
「ずいぶん積極的だな」
「ずっと、こうしたいって思ってたから」
はにかみながら可愛いことを言ってくれる。
「――っかやろ伊月お前、確信犯か?」
「え?」
きょとんとした顔をされて、思わずため息が洩れた。
無意識で誘っているのならタチが悪い。
「日向? オレ、なんか変な事言った?」
「なんでもねぇよ! ダアホッ」
心配そうに見上げて来るその唇に強引にキスをして、伊月の体ごとベッドに引き上げ押し倒した。
ほんの少し割開いた唇の間に舌を差し込み、口腔内を蹂躙する。
伊月は抵抗する素振りもなくそれを受け入れ積極的に舌が絡んで来る。
「ん、ふ……」
くそっ、やべー気持ちイイ。キスの合間にチュクチュクと濡れた音がして、それが余計に興奮を煽った。
背中に回された腕も、上気した頬も、熱っぽく潤んだように見える瞳も、時々洩れて来る鼻から抜けるような甘い吐息も全部が愛しい。
服の中に手を差し込み腹を脇撫でると伊月が僅かに身を捩った。
「う、ひゃ……日向、や、ソコくすぐったい」
手で顔を覆い隠し、肌に触れる度に「うひひひひひっ」と、不気味な笑い方をする。
「あのなぁ、もうちっと可愛い声出せねぇのか? なんだよその笑い方」
あまりにも萎える笑い方をするので抗議したら、伊月が口を尖らせながらガバッと跳ね起きた。
「五月蠅いな。日向が変な触り方するからだろ? だいたい、胸なんか触ったってくすぐったいだけだって」
「そ、そうなのか?」
「そーだよ!」
「じゃぁ、どこが気持ちいいんだよ」
「……ッ! オレが知るわけないだろ? そんな事直接聞くなよ日向のスケベ!」
「はぁっ!?」
文句を言われカチンと来た。つか、なんで俺がスケベ扱いされにゃならんのだ。
思わず溜息が洩れて、ベッドから起き上がる。
「あー、じゃぁもういいわ。なんか、萎えちまったし」
「えっ?」
伊月の表情に戸惑いの色が浮かぶ。
「誕生日祝ってやるのが目的で、こういう事する為に来たんじゃねぇからな。嫌なら仕方ねぇよ」
「別に、嫌だとは言ってない……」
「……」
「……」
二人の間に微妙な空気が流れ、本日幾度目かの溜息。ちらりと時計に目をやれば、0時を少し回ったところだった。
「っと、もう0時超えちまったな。誕生日、おめでとう」
「日向……オレっ」
「悪い、ちょっとトイレ行って来るわ」
これ以上、この空気に耐えられそうになくて伊月に背を向け部屋を出た。
目の端に映った伊月の顔。今にも泣きそうで、罪悪感でいっぱいだった。


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