No title

(伊月SIDE)
久々に日向が家にやって来て、オレは少々舞い上がっていたのかも知れない。
母さんが用意してくれた夕食を一緒に食べ、少しみんなと話をした後、部屋に戻ってきて直ぐに日向が大きなため息を吐いた。
「あー、やっぱお前ん家疲れるわ」
「えっ?」
「マジでダジャレのオンパレード。わかってたけど、ツッコミが追いつかねぇ」
確かに、母、姉、妹が揃う食卓で日向が段々喋らなくなったなぁと思ってはいたけれど。
「いっそ日向も参加すれば――」
「しねぇよ、ダアホッ! そもそも、あんなにポンポンダジャレが出てくるかっての」
「そっか……」
日向もダジャレ言ってくれて全然OKなのに。ちょっと残念だ。
「……」
「……」
お互い黙り込むこと数秒。
意識しないようにしててもやっぱりどうしても意識してしまう。
普段はあまり気にならない沈黙も今日はなんだか落ち着かない。
「音楽でも付けようか」
「おぅ」
コンポにスマホを接続し、会話を邪魔しない程度の音量で音楽を流す。
流しながら、ずっと気になっていたことを思い切って聞いてみた。
「あのさ、なんで急に今夜泊まりたいとか言い出したんだ?」
別に泊りに来るのは構わないし、むしろ嬉しい。
だけどあまりにも唐突過ぎて、何か重大な相談事とかあるんじゃないかと心配になる。
「ん? あー……明日、何の日か覚えているか?」
「明日?」
オレから視線を逸らしつつ、言いにくそうにそう切り出した日向。
明日? 明日ってなんかあったけ……。
ちらりとカレンダーに目を向けてハッとした。
明日は23日。オレの誕生日だ。
「日向、もしかして……」
「お前、あんま何が欲しいとか言わねぇし、ぶっちゃけ何がいいかわかんねぇからせめて、誕生日の瞬間位一緒にいてやろうかと思って――って、おいっ!」
まさか日向がそんなことを考えてくれていたなんて夢にも思ってなかったから、嬉しくて思わず抱き付いた。
勢い余って日向もろとも床に倒れこむ。
「重いから降りろダアホッ!」
「ありがとう、日向。オレ、すげー嬉しい」
「……まだなんもしてねーだろ」
「一緒に過ごしたいって思ってくれてただけで十分だよ」
「バーカ。それで満足してどうすんだ」
苦笑しながら日向の右手が俺の頬に触れた。互いの視線が絡む。
引き合うように唇を寄せ合い、ドキドキしながらゆっくりと目を閉じた。
そこへ、「俊、お茶持ってきたよ」と、部屋の外から声がかかる。
「!!」
あと数ミリでキスという距離を日向の胸を押し返す形で広げるのと、部屋のドアが開くのはほぼ、同時だった。
「あら、静かだと思ったら二人で何やってるの?」
言われて改めてオレが日向に馬乗りになっていることに気付いて、慌てて上か降りた。。
「えっ? ええっと、いや、ほらっ明日授業で救急蘇生法があるからその練習! みたいな?」
「wwwwwww」
「ふぅん。あまり騒がないようにね」
「わかった」
コトリ、とローテーブルにジュースの入ったコップが置かれ、姉さんが部屋を出ていこうとする。
ホッとしたのも束の間だった。
「あ、そうそう。お風呂空いてるから二人とも早めに入って来てね」
「わかったから! もういいだろ姉さん。早く出て行ってよ」
ドアが閉じられる瞬間にひょっこりと顔だけを出した姉さんを半ば強引に部屋から追い出しドアを閉める。
「あら、俊てば反抗期?」
なんて声が聞こえたけれど、それは敢えて聞こえないふりをした。
「たくっ、部屋に入る時はノックしろって言ってんのに……」
「お前……救急蘇生法ってのはちょっと無理があったんじゃね?」
噴出すかと思った。と、日向が抗議の声を上げる。
仕方ないだろ。他に言い訳が思いつかなかったんだから。
「でもま、続きは皆が寝静まってから、だな」
「つ、つづきって……」
耳元で囁くように息を吹きかけられ、ブワッと体温が上がる。
「伊月、大丈夫か? お前、すげぇ顔真っ赤だぞ」
「〜〜〜ッ」
クククッと喉で笑いながら、日向は自分の着替えを持って部屋から出て行ってしまう。
日向の足音が風呂場へ消えても、たった今囁かれた言葉が耳について離れなかった。


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