No title


(日向SIDE)

「じゃぁ、またな」
また明日。と言って手を振る木吉と別れ、その姿が小さくなっていくのを確認してから日向はそろりと息を吐いた。
木吉は変なところで何かと鋭い。おまけに空気が読めない奴だ。、
細心の注意を払わなければ首を突っ込んで来るのが目に見えている。
せっかくの二人きりの時間を邪魔されては堪らない。
「伊月、行くか」
「あぁ。そーだな」
何処か照れくささを感じつつ、並んで伊月の家へと向かう。
秋の陽は釣瓶落としとはよく言ったもので辺りはすっかり薄暗く、雲一つない空に浮かんだ美しい満月が煌々と辺りを照らしている。
「なぁ、日向」
「ん? どうした?」
「ここ、誰もいない……」
言うと同時に、腕をぐいと引かれた。ぐっと二人の距離が近くなり、手のひらに指が絡んで来る。
「お、おいっ」
「大丈夫。誰か来たら直ぐに離すから」
恥ずかしいのか目線を合わせずそう言う伊月の頬はほんのり桜色に染まっている。
「便利だなイーグルアイって」
「こんなことに使う能力じゃないんだけどな」
普通の男女の恋愛なら、堂々と手を繋いだり周囲に付き合っていますと公言出来る。
別に悪いことをしているわけではないのに、こうやって人目を気にしながらでしか触れ合えない関係が何とももどかしい。
「ま、いーんじゃねーの?」
繋いだ手から伝わってくる温もりに応えるようにぎゅっと手を握り返すと伊月がハッとしたように顔を上げた。
そして、はにかみながらコクリと頷く。
「あ! ほら、日向見ろよ!」
「あ?」
「月が凄く綺麗だぞ」
見上げる先には、雲一つない闇の中にぽっかりと浮かんだ丸い月。
空気が冷えて益々澄んで美しく見える。
「ホントだな」
こうやって空をじっくり眺めるのはいつ振りだろう?
月なんていつ見たって変わらないだろ。と思っていたのに。
きっと、伊月と一緒に見ているから綺麗に見えるのだと思う。
(……なんて、こっぱずかしいセリフぜってぇ言わねぇけどな!)
自然と赤くなってしまいそうになる頬を誤魔化すように辺りを見渡しながら歩いていると、数メートル先にコンビニの看板が見えた。
「なぁ、コンビニ寄って行こうぜ」
「そうだな。コンビニでいいコンビに! キタコレッ」
「……お前ホント……」
くだらなすぎるダジャレに思わずため息が漏れる。
これさえなければモテるのに、ホント残念な奴だ。
まぁ、モテられても困るのだけれども。
「じゃぁ俺、飲み物探して来るわ。伊月はコーヒーでいいか?」
「悪いな。あ、恋人のコーヒーは濃い微糖で頼む」
「……ハイハイ」
毎回ツッコむのも面倒で伊月のくだらないギャグをスルーし、飲み物コーナーへと向かう。 
伊月はどう思っているのだろう。
思えば、恋人として彼の家へ行くのは初めてだ。
家族が居るから何か進展があるとは思えないが、少しは期待してくれたりするのだろうか?
自分だけテンション上げて、伊月との温度差があり過ぎだったら、虚しすぎる。
「おい、そろそろ会計すっぞ……って」
悶々と考えを巡らせつつ、隣の陳列棚でキョロキョロと不審な動きをしていた伊月に背後から声を掛けると、伊月の肩が盛大にびくりと跳ねた。
その手に握られていたのは、コンドームの箱。
「あー、一応俺持ってきたから」
「へっ? そうなのか!?」
間抜けな沈黙が二人の間に降りてきて思わず吹き出してしまった。
「……ブフッ」
「なっ!? 笑うなよ馬鹿っ」
「悪りぃ、悪い。だって伊月が……クククッ」
「だ、だって無いとダメだろ」
耳まで真っ赤に染めながら陳列棚にソレを戻す姿がなんとも可笑しい。
これはもう、伊月も自分と同じ気持ちでいてくれると思っていいんだよな?
(やっべ、ニヤける)
もしかしたら、と期待していたのが自分だけじゃないと分かった途端、嬉しくてどうしても口元が緩んでしまうのを止めることが出来なかった。


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