No title

「最近どう? 木吉と上手くいってる?」
部活帰り、立ち寄ったマジバで席に着くなり伊月がそう切り出してきた。
「はぁっ!? いきなりなんだよ。つか、質問の意味がわかんねぇ」
あまりにも唐突に話題を振られたもんだからうっかりコーラを吹き出しそうになったじゃねぇか!
「いや、仲良くやってんのかなって思って」
「元から仲良くなんてしてねぇし」
「でも、連絡取り合ってるんだろう?」
「……っ、向こうから一方的にくだらねぇ電話がかかってくるだけだ。俺からはかけた事なんて数えるくらいしかねぇよ」
アイツはまだ入院中だ。そろそろ退院出来そうだと言っていたが、連絡がねぇし恐らくもうちょいかかるだろう。
退院できてもどうせ直ぐには部活なんて無理だろうし、アイツと一緒にまたバスケ出来んのはインハイ終わってからになるか。
「ふーん。でも、今日はかかってくるんじゃないかな?」
「なんでそう思うんだ?」
「だって明日は日向の誕生日だろ?」
「……あ!」
そういやそうだったな。最近毎日忙しくてすっかり忘れてたわ。
「木吉の事だから0時きっかりに電話してきたりしてな」
「あるわけねぇだろんな事! ねぇわ、絶対……」
そういや、去年の誕生日は夜に突然家に来て、今夜は星が綺麗だから見に行こうぜって無理やり連れ出されたんだった。
「木吉ってサプライズ好きそうじゃん。突然家に押しかけてきたりしてさ。楽しみだな、日向」
「別に楽しみなんかじゃねぇし! 怖いこと言うなよ伊月。つかニヤニヤすんな気持ち悪いっ!」
「気持ち悪いって、酷いな。それ」
そう言って伊月が苦笑する。
0時きっかりに電話とか……絶対ねぇよ。……多分。
「ま、報告楽しみにしてるぜ」
「報告の義務はねぇし、電話なんて来ないから安心しろよ」
「電話にでんわ! なんちゃって」
「伊月うぜぇ!」

なんて、会話を伊月と交わしたのが8時ちょっと過ぎ。そのあと予選の話とかで盛り上がったせいもあって、家に帰り着いた時には10時をまわっていた。
それから風呂に入って、明日の準備とかその他諸々用事を片付けて、気が付けば時計の針は0時を過ぎようとしている。 
ちなみに、当然の事ながらアイツからの連絡なんていっさい来ていない。
静かな室内に時計の秒針だけが妙に大きく響きわたっているようで、知らず大きなため息が洩れた。
電話なんて来るわけねぇだろ。木吉だし……。
べ、別に伊月の言葉を間に受けたわけじゃねぇからな!
期待なんてしてねぇし。寧ろ誕生日の最初にあいつの声聞くとかうぜーし。
誰にするわけでもない言い訳をして、ベッドに入る。
もう寝てしまおう。明日も早ぇし……。
でももし、このあと電話かかってきたら? アイツの事だから10分、20分くらいの時差は気にしてないのかもしれねぇ。
そう考えたら中々寝付けなくて鳴らない電話を眺めては大きなため息が洩れた。

そして何時もどうりの朝が来て、母さんにおめでとうと言われたり、伊月達やカントクからささやかなお祝いしてもらったり、何時もと代わり映えしない日常が刻一刻と過ぎていく。
ちなみに木吉からは結局なんの音沙汰も無しだ。
ま、人の誕生日なんていちいち覚えてねぇわな。俺なんて伊月に言われるまで自分の誕生日忘れてたくらいだし。
ちらりと時計を見てみれば、時刻は23時過ぎ。あと、数十分で今日が終わってしまう。
そういや、最後に木吉と話したのはいつだ?
火神や黒子が入ってすぐくらいだったから一ヶ月くらいか……。
そんなことを考えながら部屋でぼーっとしていると、突然スマホが着信を告げた。
発信者は木吉……? 表示された名前にドキリとし、恐る恐るスマホを耳に押し当てる。
「も、もしもし?」
『おー、日向! 久しぶりだな。元気かぁ』
耳に馴染んだ暢気そうな声。間違いなく木吉だ。
「オマエの暢気な声聞いたらテンション下がった」
『えー、なんだよそれ』
「言葉の通りだよ。それより、なんか用か?」
用件は何となく察しは付いているけれど、一応聞いてやる。
『別に用ってほどのモンじゃないんだが……今から日向ん家行ってもいいか? と、言ってもあと少しで着いちまうんだが』
「はぁっ!?」
あまりにも突拍子もない事を言われ、思わず間の抜けた声が洩れた。
『外は以外と寒くてなー。もう直ぐ着くから』
「もう直ぐって……お前今何処にいるんだよ!?」
てっきり病院から電話かけてんだとばかり思っていたけど、よく考えたら消灯時間とっくに過ぎてんじゃねぇか!
しかも、風を切る音が時々電話口から聞こえてくる。
慌てて窓の外を覗いてみれば、目と鼻の先に一台のチャリが俺ん家に向かって走ってくるのが見えた。
呑気に手を振る姿は、とても怪我で入院中には見えない。
『インターホン鳴らすのは流石に迷惑だろ?』
「たりめーだダアホッ! 母さん達寝てんだから!」
慌てて降りて、玄関を開けると入院前と何一つ変わってない木吉の姿。
呑気に”よぉ”なんて言いながら笑顔を向けられ小さなため息が洩れる。

玄関先で立ち話するわけにもいかず、仕方なしに俺の部屋へ上げてやる。狭い空間に野郎が二人。むさくるしい事この上ない。
「お前いつの間に退院してたんだよ。聞いてねぇぞ」
「悪いけど、退院じゃないんだ。一時帰宅って言うやつでさ、あさっての夕方にはまた病院に戻らないと」
予選までには間に合わせたかったんだけどな。なんて、少し寂しそうな表情で言われたら何も言えなくなっちまう。
「たく、来るなら来るってもっと早く言えっての! 俺がもし寝てたらどうするつもりだったんだ」
「そういやそうだな。ビックリさせたかったんだよ。明日は日向の誕生日、だろ?」
”木吉ってさ、サプライズとか好きそうじゃん? 突然家に押しかけてきたりして”ふと、昨日伊月が言っていた言葉を思い出して苦笑――って、ちょっと待てよ?
「俺の誕生日、今日なんだけど」
「え、今日?」
きょとんとした声が響き、一瞬の間が出来る。
その間にイライラさせられたが、そこはぐっと堪えた。
「何言ってんだよ日向、お前の誕生日は16日だろ?」
「だから今日が16日なんだよ。お前が何言ってんだよダアホッ! ちゃんとカレンダー見ろよほら!」
「……マジで?」
コイツ……素で間違ってやがったのかよ。あまりのボケっぷりが木吉らしいというかなんと言うか。
「あのなぁ、俺が嘘吐く理由がどこにある?」
「そっかぁ、一日間違えてたな。悪い悪い」
あはは、とたいして悪びれたふうでもなく笑う木吉。
あはは、じゃねぇっての!
「でも、取りあえずはギリギリセーフって事で勘弁してくれ」
「?」
一瞬、何を言われたのかよくわからなかった。けど、俺の前ににゅっと伸びてきた手に握られている包みを見て納得。
「ハッピバースディトゥユー、ハッピバースデイトゥユー♪――」
「歌うなダアホっ! 恥ずかしいし、近所迷惑だっつーの! 今何時だと思ってんだよお前は!」
「あはは、悪い悪い」
たくっ、ホントこいつといると疲れる。
開けてみろよと促され、仕方なしに包装紙を開くと出てきたのはリストバンドだった。
「悩んだんだけどさ、戦国武将はよくわかんなかったし常に身につけられるモノがいいと思って」
「……そうか」
コイツも色々考えてくれてたんだな。
「悪い。気、聞かせちまったみたいで……その、サンキュな木吉」
「日向に礼を言われると、なんか気持ち悪いな」
「あぁ? 今なんつった?」
「ハハッ、冗談だ。あぁ、俺の誕プレは日向からのキスでいいから」
「はぁああっ!? おまっ、何言ってんだっ」
「ちなみに、来月の10日だからな」
「知ってるよ馬鹿! じゃなくて!」
なんで指定されなきゃなんねぇんだよ! しかも、き、き……キスって……っ。
「楽しみにしてるからさ」
「すんな!」
へらっと笑われて、もうどうツッコんでいいのかわからない。
頭沸いてんのか? 
「あ、そうだ日向」
「今度はなんだよ。キスならしねぇぞ!」
「確かもう直ぐ予選だよな? 俺が復帰するまで負けるなよ!」
「……あぁ。わかってる」
一緒に日本一目指すって約束したもんな。今年は火神や黒子もいるしきっと、多分いい所まで行けるんじゃないか?
「じゃぁ、約束のチューを……」
「す、するかっダアホっ!」
静かな室内に、木吉の後頭部をスパーンと殴る小気味いい音が響き渡る。
ちらりと時計を見てみれば、丁度0時を過ぎた所だった。

やっぱ、コイツといると疲れるわマジで。 
でも、俺の誕生日覚えててくれたことに関してはほんの少し、嬉しかった。かな?


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