No title

「い、いや……別にイヤってわけじゃ……ただちょっと恥ずかしいだけで……」

「てめぇは馬で十分だっ!! お前みたいなデカイ白雪姫とか俺が嫌だっつーの! ダアホッ!!」 

オレの言葉は、木吉に飛び蹴りを食らわせた日向の声にかき消され、誰の耳にも届いていないみたいだ。

「大体、木吉じゃ伊月の衣装入らねぇだろうが! 自分のデカさ考えろっ!」

「あ〜、そういやそうか。お前らの衣装だけまだ出来てないからサイズのことすっかり忘れてた」

馬面の上からガシガシッと頭を掻いて、木吉が呑気に笑う。

「考えろ! ダアホっ。てか、普通に気づくだろ! それに、お前とキスシーンやるくらいなら俺はその辺の木の役にでもなった方がマシだ!!」

「酷いなぁ、日向は。そんなに照れなくてもいいじゃないか」

「照れてねぇ! お前の耳は一体どうなってんだっ!」

ハァッと盛大な息を吐きながら、眉間に手を充てて小さく左右に首を振る。

なんか、いいよな。あの二人……。

少し羨ましい。

「それにしても、遅いよな日向たちの衣装。文化祭までに間に合うのか?」

茶色の小人用衣装を身につけた土田が大丈夫かな? と、心配そうに呟く。それにウンウンと頷いているのは水色の衣装を着た水戸部だ。

「間に合ってくれなきゃ困るし、まぁ洋裁部の奴らがなんとかしてくれんだろ」

間に合わなかったらアイツらマジで絞める! なんて、日向が物騒なことを言い出し、さらには小金井までもが「本番で主役がジャージ姿とか笑えないからね〜」

なんて、本気で笑えないような事を言い出して、オレ達はみんな俯いてしまう。

本番までに間に合わないとか、考えるだけでもぞっとする。

「とにかく、今は洋裁部の奴らを信じるしかないだろう! オレ達に出来るのは、本番にミスしないようにとにかく練習することだけだ」

練習再開すっぞ! と、日向が眼鏡を光らせ、周囲からまだやんのかよとブーイングが沸き起こった。 

外はもうずいぶん前から暗くなっていて、腹の虫もそろそろ騒ぎ出しそうな感じだ。
「日向、今日はもういいんじゃないのか?」

「馬鹿言え! 本番まであと一週間も無いんだぞ。本番で失敗しないためにも練習あるのみだ! 特に伊月。お前はミスが多すぎなんだよ!」

「だ、だから……本番ではちゃんとやれるって」

セリフも、内容も一応一通りは覚えているんだ。アレは覚えていないとかそう言う問題じゃないんだよ。

解ってくれとは言わないが、心の準備が出来るにはもう少し時間がかかる。

「出来たわよ――っ! 見てみて、みんな、凄いよ!」

「!?」

なんと答えていいのか悩んでいると、突然勢いよく体育館のドアが開いてカントクが意気揚々と飛び込んで来た。

その手に抱えられているモノを見て、館内が一気に沸き立つ。


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